うらら学園に入学する以前に、何回かは恋愛というものを経験したつもりでいたけれど、
本気の、大人の恋愛というものはまだ一度しかしたことがない。しかもその一度きりの本気の恋愛でさえも、
未だに片思いから発展できていない有様だ。
心の底から愛している人が自分に振り向いてくれないことほど切ないことはない、とつくづく思う。
 振り向いてくれないポピィ先輩を想い続けて、もう何年経つだろう?



「ナミちゃーん、これコピーとってくんない?」
「…はぁい」

 うらら学園を卒業して以来、私は猛勉強した。それはもちろん、ポピィ先輩と同じ職業、魔法の国の国家公務員に合格するため。
毎日毎日、朝から晩までポピィ先輩と一緒に過ごせるようになるんだ!なんて考えると、自然と頬がにやけた(お姉ちゃんに気持ち悪がられたけど)。
 一生懸命勉強した努力は、最終的にはあまり報われなかった。
情報部ではなく、水産業部に配属されてしまったのだ。がっかりしたと同時に、やっぱりな、とも思った。
情報部は国の重要な機密を扱っているところだから、自然と試験も難しくなっているのだ。
あと、書類に『人魚』だと書いたのもまずかったのかも知れない。情報部で駄目だったから、水産業部に引っ掛かった可能性もある。
 なんだか、いくら頑張ってもポピィ先輩が振り向いてくれないように、いくら近づこうと努力しても、
ポピィ先輩との距離を縮めることができないような気がした。

「部長、できました」
「おお、ありがとう」

 お茶汲みとコピーに慣れてきた頃、ようやく職場のつくりや各部署の細かい位置もわかってきた。
いろんな部署があるけど、情報部は王様の部屋と隣接していてわかりやすかったからすぐ見付かった。
「ああ、ポピィさんなら、王様につきっきりですよ」
…王様に…?
「そう、ですか」
――そうだ、ポピィ先輩はエスパーなんだし、特別な任務を任されているんだ。
 やっぱりポピィ先輩はすごい。
けれども、なんだか私は置いてけぼりをくらったような感じがした。
追いかけて、追いかけて、追いついたつもりでも、先輩の背中は見えない。


「は〜あ〜」
 夕食を食べた後、お姉ちゃんとお茶を飲んでいたら不意にため息が出た。
「なんなのよ、ナミ。ため息なんかしないでよ、湿っぽいわね。それよりこれ、どうだった?おいしかったでしょ」
 タコのマヨネーズ和えがあったお皿を指差しながら、お姉ちゃんは自慢げに言った。
今日の夕食当番はお姉ちゃんの番だったのだ。
「うん…、おいしかった」
「もう!もっと良いリアクションしなさいよ!頑張って作ったのに」
 お姉ちゃんはむっとしたように席を立って、食器の片づけを始めた。
 流し台に立って皿洗いをするお姉ちゃんの後姿はすらりと背が高くて、体型にメリハリがある。
やっぱり、モデルの仕事をこなしているだけあってスタイルがいい。
 何を思ったか私は、しばらく前から気になっていた疑問を口にした。

「……お姉ちゃん」
「何」
「なんでリーヤ先輩のこと、追っかけなくなったの?諦めたの?」
「だって、リーヤ君よりカッコイイ人見つけちゃったんだもの」
うきうきとした口調でお姉ちゃんは答えた。
「リーヤ君よりずーっとカッコよくて、背が高くて、やさしいんだから。
それにお金持ちでー、強くってー…」
 なぁんだ、と思った。
お姉ちゃんはリーヤ先輩と同じような要素を持っていれば、誰でもいいんだ、同じ要素を持っている人を無条件に好きなるんだ、と。
けど私も惚れっぽいところがあるので、人のことはとやかく言えない。
ところが一言、そこへお姉ちゃんが言葉を付け足した。
「だってそれにリーヤ君、私には目もくれないんだもの。チャチャばっかり見てた」
 さっきとは一転して、いつもより少し物悲しい、さみしげな口調だった。
「…ふぅん」
 
どう言葉を返せばいいか分からなくて、私は曖昧に会話を終わらせた。
 いつのまにかお姉ちゃんは、相手の気持ちを考慮して自分をコントロールできるくらいの大人になったのかも知れない。

それから数日。
「よぉっ!!みんな仕事頑張ってる?」
 突然、満面の笑みで王様が水産業部の部屋に訪ねてきた。
 部長を含め、慌てふためいてみんな総立ちになる。
「どっ、どどうされましたか、王様!?」
 部長が緊張した様子で王様に尋ねた。
 私も驚いていた。王様、というより平八さんとはポピィ先輩と同じくらい久しぶりだ。
……ということは、ポピィ先輩はどこ!?一緒にいるんじゃないの!?

「おっ、お前、ナミじゃねーの?」
 ポピィ先輩を探してキョロキョロしていたら、平八さんに名前を呼ばれた。
覚えてもらえていたらしい。
 部のみんなの視線が私に集まる。
「は、…はい」
「ひっさしぶりだな〜!!って今はそれどころじゃねーや。ちょっとかくまってくんね?」
「えっ!?何でですか!?」
 平八さんは苦笑いをしながら答えた。
「ポーちゃんに追われてんだよ。
ワケはともかく、見つかったらこっぴどく怒鳴られちまうから、とりあえずかくまってくれ。
みんなもポーちゃんが来たら、俺様の事は知らんぷりしてくれよ!
よろしくな、頼んだぞ!!」
 そう命令すると、私の方へ駆け寄ってきて、ひょいと机の下へ隠れた。
またとんでもないところに隠れてくれたものだ。
 それから数十秒後、呆気に取られていた雰囲気を元に戻すように部屋のドアが、バアン!!とすごい音を立てた。
 びっくりして、パッと音のした方を見ると、

怒りの表情を浮かべたポピィ先輩がいた。

「平八ぃ!どこだー!?ここに国王が来ただろ!?どこだ!?」
あまりの剣幕に押されて、数人がチラっと私のほうを見た。
ポピィ先輩も私の方へ目を向けた。目が合った。
――本当に、本当に先輩だ…!


私は嬉しさを抑えきれずに、ガタン!と机から立ち上がった。
「ポピィ先輩っっ!!!」
平八さんと部長はドキリとした、焦ったような顔をしたけど、そんなことは気にしない。
「…お前ナミか?」
「はいっ!お久しぶりです、先輩!!」
「それより、平八知らね?あいつ、国家予算でゲームソフト保管庫建てようとしてやがったんだよ」
あいかわらずのゲーマーらしい。
その平八さんは机の下で人差し指を口元に当て、必死の形相で『黙ってて』のサインをしている。
「そっ、そうなんですかぁ」
「困ったもんだぜ、『奥さま目安箱』なんて番組始めたりさ。
生の意見を聞くためとかどうとか言ってるけど、あいつがテレビに映りたいだけじゃねーのかって思うけどな。あと……」
 ポピィ先輩が愚痴りながら、私の方へ歩いてきた。
 ――やばい。平八さんがやばい。
 どうにか隠してあげないと、平八さんが先輩から超巨大大目玉を食らってしまう。
 苦肉の策で、後ろに引いていた椅子を机に少しだけ戻してみた。
 平八さんが苦しそうにしているけど、ここは我慢してもらわなくてはならない。
ごめんなさい、平八さん、と心の中で謝った。
 机の下の平八さんに気を取られている間に、ポピィ先輩がいつのまにか傍に来ていた。
昔と同じように、私は少し見上げる格好で先輩の顔を見る。ほっぺのなるとは健在だった。
先輩は名刺を取り出すと、私の机にあったペンで裏にさらさらと何かを書いた。
「それと、もし平八を見たら連絡してくれるか?これ、俺の携帯番号な。普段は王室にいるから」
 再会直後にいきなり電話番号!?やった〜!!
「はははい!分かりましたッ!!」
「そんじゃな」
 部屋のドアが、開いたときよりも小さい音でバタン、と閉まった。

 平八さんがぐったりした様子で、机の下から這い出てきてふう、とため息をついた。
「……いやぁ〜、助かったわ〜、マジで。あんがとな!」
 この時点で、私はある野望を企んでいた。
「…平八さん」
「ん?」
「ほんっとうにごめんなさいっ!!」

ペコリと頭を下げると、平八さんの首根っこのあたりを掴んで王室にダッシュした。



私が王室を訪ねたとき、ポピィ先輩はなにやら書類を見ていた。
「ん?どうした?」
「先輩っ!平八さんを連れてきました!!」
「は!?」
驚いた顔をしたポピィ先輩の前に、縄でぐるぐる巻きにした平八さんをぺいっ、と差し出した。
「ひでーなぁ、国王の俺様を縄で縛ったうえに、ポーちゃんに売るとは…」
「平八ー!!!てめー、どこ行ってやがった!?」
先輩の怒りがドカンと爆発した。
「うひゃ〜…。ポーちゃん、そんな怒んなくても…」
「怒鳴りたくもなるわ!!お前、国王だって自覚あんのか!?何だ、この仕事の山と『国王専用保管庫の建設についての提案』っつー書類は!!!」
「いや、俺様が頑張っていくらか予算を浮かせたからさ、それで新しいゲーム置き場作ろっかな〜…と思ってさ。自分へのボーナスってやつだよ」
「私的な目的で予算を浮かすんじゃねー!!」
「あ、あ、あのおっっ!!!」
ここで延々とポピィ先輩の説教を聞いていても仕方ないので、私は声を張り上げて話を止めに入った。
二人がはっとして、私に目を向ける。
――今だ!言うんだ、私!!
「こ、こうしてまた先輩に会えたことですし、今夜、一緒にご飯でも行きませんかッ!?」
ここに来るまでに何回も心の中で練習したはずだったけど、緊張で声が震えた。
「ああ…、そうだな。平八も連れて来てくれたことだし」
「!!!」
――いいの!?ホント!?
「あ、俺様も行く!どこにするよ?」
「お前はこの書類の山を片付けてからだ」
「ポーちゃんのいじわるぅん…」
本音としては先輩と2人で行きたかったのだけど、まあ仕方ない。
「そ、そそれじゃ、終わったらまたここに来ますから!!」
「おう、こいつの仕事が無事終わってたらだけどな」
「よぉ〜っし!頑張るぞ〜!!」
急に平八さんがやる気を出したのが、少し可笑しかった。
「それじゃまた!失礼しましたっ!」


べろんべろんに酔って、平八さんの背中におぶわれたポピィ先輩が「う`ぇ〜…」と気持ち悪そうな声を出した。
「いやぁ〜、ここまでポーちゃんが下戸だったとはなぁ〜」
「そうですね」
私は平八さんとくすくす笑いながら、先輩を家まで送り届けていた。
少し酔いがまわって、体温が高くなった顔にあたる風が気持ちよい。
それにしても、生ジョッキ3本で泥酔してしまうなんて、先輩はつくづくお酒に弱いんだなぁ、と思う。
私と平八さんは、それぞれ生ジョッキ3本と焼酎一升瓶まるごと飲んだだけなんだけど。
帰り際には、理由もなく大笑いしていたり、平八さんと上機嫌で歌を歌っていたりしていた。
あんなにハイになった先輩は初めて見たので、呆然としてしまった。
「私、先輩のおうちに行くの初めてなんです」
「ほー、そうかー。そういえば、なるとはもう寝てる頃だな」
「なるとちゃん元気ですか?」
「おう、元気そうにしてたぜ。まだまだ甘えっこボーイだけどな。
でも、昨日から友だちんちに泊まりに行ってるみたいだけど」
「へぇ〜。なるとちゃんも大きくなりましたね」
今度クッキーでも焼いて、持って行ってあげようかなぁ。


「どっこいせっと」
平八さんは、居間のソファに先輩をゴロンと転がした。
ポピィ先輩も平八さんと同じような体格だから、割と重労働だったのかも知れない。
平八さんはうーんと背伸びをして、冷蔵庫から勝手にジュースを出して飲んでいる。
「お`ぇえぇ〜…」
先輩がまたうめき出した。
大変だ、先輩にも何か飲ませないと。
「平八さん、ミネラルウォーターか何か、あります?」
「えーっと、これか。ほい」
「ありがとうございます。ほら先輩、水飲んでください」
「ん…」
まだ意識がはっきりしないようだ。
ミネラルウォーターのキャップを開けて手渡したけども、先輩の手が滑ってペットボトルがボトンと先輩のお腹の上に落ちた。
「きゃっ!!」
ミネラルウォーターが、着ているスーツやソファをどんどん濡らしていく。
平八さんが呆れた調子で、
「な〜にやってんだよ、ポーちゃんてば。ほれ」
と言って、私にふきんを投げて寄越してくれた。
「あ、ありがとうございます」
このままだとスーツがシワになってしまいそうだったので、上だけ脱がせて、近くにあった椅子にかけておいた。
「ふぅ、じゃあそろそろ俺様帰るな。
サンダルの兄貴たちに、遅く帰ってきたら子どもが起きるだろ!って怒られちまうからさ」
「平八さんも、怒られてばっかりで大変ですね」
「そうなんだよー。まぁ、ポーちゃんよろしく頼むわ。じゃーなー」
「おやすみなさいー」
ドアが閉まると、急にシーンとなった。


――ポピィ先輩とふたりっきり…!!
そう思うと、途端に胸がドキドキした。
先輩は少し酒臭い息をしながら、仰向けで熟睡している。
さっきこぼしたミネラルウォーターのせいで、シャツから少し素肌が透けて見える。
私はそーっとソファの傍にしゃがみ込んで、赤くなっている先輩の顔を覗き込んだ。
前よりも顔立ちが大人っぽくなってはいるが、トレードマークのほっぺのうずまきなど、ベースは変わっていない。
横のちょんとはねた前髪も、昔と同じだ。
ただ、見る限り変わったところといえば、がっしりした体つきの『男の人』になっているところだろうか。

何年も恋焦がれたポピィ先輩が、私の目の前に、手を伸ばせばすぐに触れられるところにいることを、心の底から嬉しく思った。

「んぁ…」
私の視線が強力だったのか、さっき濡れたワイシャツが冷たかったのか、先輩がゆっくりと目を開けた。
目を覚ましたのはいいが、やっぱりまだ酔いはさめていない様子だ。朦朧としていて、視点が定まっていない。
「ポピィ先輩、大丈夫ですか…?お水、飲みます?」
「んん〜…」
「せんぱーい、ポピィせんぱーい」
「…ろろひー…」
「え?」
先輩は私の後頭部に手をかけて、ぐいっと自分のほうへ引き寄せた。
顔と顔の距離が、一気に縮まる。心拍数がうなぎ上りに上がっていくのがわかった。
「…せん、ぱい…?」
さっき先輩が何と言ったのかは、聞き取れなかった。
何だったんだろう?
そんな思考を遮ろうとするように、先輩が唇を合わせてきた。
「っん!!!」
突然のことに驚いてしまったうえに、手で後頭部を強く抑えつけられているものだから、身動きできない。
この年齢になるまでキスはしたことがなかったから、こんなにも唇が柔らかいことに驚いた。
先輩は私の唇を舌でなぞったり、ついばむようにキスをしたりする。うっとりして、クセになりそうな感触だ。
(ポピィ先輩…)
しばらくそんなことをしていると、先輩の舌が私の口腔内に侵入してきた。
お互いの舌の先端が、一瞬触れ合う。温かかった。
「んん…」
口腔内を動き回っていた先輩の舌が歯茎をつぅ、となぞったので、私は一気に体の力が抜けてしまう。
「んぁっ」
一瞬、唇が離れた隙に、私は息を吸い込んだ。
唇を合わせている最中は、何かと呼吸がしづらくて、息苦しい。
それに、力が入らないから、中腰でしゃがんでいるのがつらくなり、私は床にぺたん、とへたりこんでしまった。
すると、先輩はソファから体を起こすと、私をそこに抱え上げてくれた。
――重くなかったかなぁ…。
ポピィ先輩は私の頭の両側に肘を着くと、またキスを再開し始める。
今度は舌を絡み合わせる、ねっとりとしたキス。
どちらのものともつかない唾液で口の中がいっぱいになり、溢れて口端から伝って落ちていった。
その感触もまた、官能的に感じてしまう。
もっと密着したくなった私は、先輩の首に腕をまわした。先輩の濡れたシャツの冷たさがわずかに感じられる。
――なんだか、恋人同士みたい。恋人でもないのに。
唾液で口の中が溢れそうになったので、私はとりあえずそれを飲み下した。甘い。
舌を絡めてキスを続けること以外、何も考えられない状態になっていた。
と、ポピィ先輩がまた唇を離した。

今度は物足りないような、淋しいような感覚になる。
閉じていた目を開けると、涙で視界が滲んで、風景が歪んで見えた。
唇の余韻に浸っていると、首筋にぞろっ、としたものを感じた。
「ひゃんっ!!」
変な感触に身を縮こまらせると、左耳にもそれを感じた。湿った音が聞こえる。
「…んッ」
先輩の舌が私の首筋やうなじを這い回るたびに、気持ちいいような、くすぐったいような、感覚になった。
息が段々と荒くなる。
「あっ…」
ワンピースの裾から、何かが侵入してくる。温かい手だった。
撫でられるように優しく太ももが擦られて、ぞくぞくしつつも気持ちよさを感じた。
「服、脱いでくれるか?」
耳元でポピィ先輩が囁いた。温かい吐息がかかって、またぞくぞくする。
「…っ」
私は声が出せなかったので、こくん、とうなずいて見せた。
一旦ソファに座り直すと、羽織っていたカーディガンを脱ぎ、ワンピースも脇にあるファスナーを下ろしてから脱いだ。
薄暗いけれど、やっぱり恥ずかしい。
――こんなことになるんだったら、もっといい下着つけとくんだったな。
先輩は私の腰に手をかけて自分のほうへ引き寄せると、抱きしめてまた唇を合わせた。
その間にも、手が私のわき腹から太ももにかけてゆっくり往復している。
先輩に触れられると、どこでも性感帯になってしまうようだ。
と、下着のフックが外された。
人に下着を脱がされるのは、予想以上に恥ずかしかったけど、ポピィ先輩の前で半分裸を晒していることのほうが、よっぽど恥ずかしい。
――それに、胸にはあまり自信がないし。
「んっ」
先輩の唇が私の口から離れて、胸の先端のほうへシフトした。
背中と腰にしっかりと手を回されて、ぴったりと密着させられている。
私は胸元にある先輩の頭に抱きつき、薄紫のさらさらの髪に顔をうずめた。
舐められているうちに、段々と快感が強くなって思わず声が出そうになったけど、それを懸命に喉の奥で押し殺した。
するとまた、耳元で先輩の声が低く囁いた。
「声、我慢するな」
先輩の両手は背中と腰から移動して、むにむにと私の胸を刺激している。
「は、恥ずかし……」
「いいから」

胸の先端をぺろっ、と舐められると、私の体はびくっ、と反応してしまった。
それを幾度も繰り返されて、遂に私は声を抑えきれなくなる。
「あぅっ!…ん…ぁ」
なんとなく、もどかしい気分になって体を軽くよじった。
先輩は舌で転がしつつ、むにむにと両手で胸を弄くっている。
「んん…っ、はぁっ」
私が声を出せば出すほど、先輩の手と舌の動きは大胆になってきた。
先輩の頭に回した腕に力が入り、ぎゅっと抱きしめる形になる。
――もっと、触ってほしい…かも。
私は目を閉じて、息を荒くしていることしかできない。時々、変な声が出る。
少し前から熱を帯び始めていた部分をを、ポピィ先輩がスッ、と下着の上から軽く撫でた。
「ひゃん!」
電気が走ったような、強烈な快感が走った。
先輩はぐにっぐにっ、と何度もそこを強くなぞる。そうしながらも、唇は私の胸の尖った部分から離さず、甘噛みしている。
胸よりも更に強い快感に、私は気がおかしくなりそうになった。
気づくと、下着の奥にぬるぬるした感触が生まれていた。
――もしや、これが俗に言う『濡れる』っていうこと!?うわぁ、恥ずかしー…。
背中と腰に回された手で支えられ、ゆっくりソファに倒された。
先輩は、私の右側に添い寝するような形で横になった。ゆったりした幅の広いソファだったから、ふたり寝転んでもまだ少しスペースが空いている。
と、先輩の手がするり、と私のショーツの中に侵入ってきた。
「せ、先輩!?」
右耳の中にぞろっ、と舌を入れられ、私はまた変な声を出してしまった。
もう制止する気力もなく、先輩のシャツを力なく掴むことしかできない。
先輩の指先は、私の恥丘をさわさわと撫でた。
恥ずかしい気持ちともどかしく思う気持ちが沸いてくる。
空いていた先輩のもう片方の手が、私の胸をまさぐり始めた。
ショーツの中で動く手は、上から下まで指でなぞったり、その指先に着いた粘液を上の敏感な突起に塗りつけたり、活発に動いている。
「んぁあ…はぅ…っん!」
先輩は覆いかぶさるような格好で、再びキスをした。
さっきのより、少し激しいキス。
「…んんぅ」
その間にも、ショーツに伸ばした手は休まず、せわしなく動いている。
水気を帯びたくちゅくちゅ、という音が私の耳にも届いた。
そのときはもう、恥ずかしがる気持ちより、先輩から与えられる快感のほうが強くなっていた。
ももにきゅっ、と力が入る。
すると、唇が離れて、隣にいた先輩が移動する気配を感じた。
うっすらと目を開けて姿を探すと、さっきまで指で弄んでいた部分に先輩が顔を近づけている。


「いやあっ…!だめっ!だめです、先輩!」
頭を押し返して抵抗しようとしたけど、私の力なんかではビクともしなかった。
ショーツ越しに、くにくにと動く先輩の舌を感じた。
反射的に体がまたビクン、と動く。
「…あ、やぁ、はう…!いやぁ…」
きゅっと足に力が入り、先輩の頭を私の太ももで挟んでしまう格好になる。
内腿に先輩の髪の感触を感じることに、私は少し官能を覚えた。
と、するりとショーツが脱がされる感触を感じた。
「やっ、ポピィ先輩!?」
先輩は、またそこに顔を近づけている。熱い息を感じた。
――やっぱり恥ずかしいー!!
かぁーっと私の顔が熱くなった。
今度は直接、舌が触れる。
「いや…ッ!!ふあぁ!」
さっきのショーツ越しにされたのとは、段違いの気持ちよさだった。
あらゆる所を先輩の舌が這い回って、ぴちゃぴちゃと音を立てている。
「はあぁ…!ぁあ…、ひあっ!ん、んぅ…」
気持ちよすぎて変な声はたくさん出てくるわ、恥ずかしいところを音を立てて舐められて恥ずかしいやらで、おかしくなりそうだった。
「あぁっ!!」
ナカに熱い先輩の舌が割って入ってきて、思わず声を上げてしまった。
それはうねうねと動き回り、上のほうにあるざらざらとした部分を集中的に攻める。
「ふっ…!あんっ!」
思わず背中が反り返った。手で頭を押し返す力も、腕に入らなくなってきている。
ぴちゃぴちゃという音が、ますます大きくなってくる。
「せっ、先輩っ!や…っ、恥ずかしい、です…!」
やっぱり、先輩は止めてくれない。
舌がほぐす様にナカで動き、少し上にある突起を指で弄られている。
段々と膨れ上がってくる快感で、私は体が何回もビクン、と動くのを我慢できなくなってきた。
「…はぁ、やぁ…!…ひっ!」
大きな快感が湧き上ってきて、じわじわと波紋が広がるように全身に伝わっていった。
体の筋肉が強張って力が入り、つま先がピン!と尖がった。
「っんあ…!!」
意思とは関係なく、全身ががくがく震える。
先輩は私の足元から離れてまた唇を合わせた。
…少ししょっぱい味でねとねとしていた。あまり口には出したくないけど。
体から快感の余韻が消えたころ、体も震えなくなり、気だるい疲労感が残っていたけど、私は息を整えるのに必死だった。
すると先輩は唇を離し、膝の裏を持って私の両足をぐっと折り曲げた。


「やっ…!?先輩、だめです!!だめですってばぁ!」
これからどんなことをされるのかは、容易に想定できる。
ちゅく…
入り口の周りをなぞっている感触がする。
さっきイったばっかりなのに、奥のほうがじわっ、と熱くなるのが分かった。
「今更止められるかよ」
入り口に先輩のものがあてがわれる。
「でも…、っああぁ!!」
それがゆっくりと押し拡げて、ナカに入ってきた。
拡がっていくのにつれて、ぎちぎちと痛みが走る。
私は入りきるまで、歯を食いしばって懸命に耐えた。
先輩は小さくため息をつくと、私の頭の両脇に手をついた格好になる。
下から先輩を見上げると、苦しそうで、切なそうな表情をしていた。
「動くぞ」
しばらくその体勢のままで見つめ合っていると、ふいに先輩がそう切り出した。
「はい…」
じっとしていると、痛みも大分和らいできた。ただ、異物感と圧迫感があるだけだ。
先輩が軽く動くと、ぬちゅっ、と恥ずかしい音がした。
痛くはないけど、やっぱり異物感は無くならず、変な感触がある。
「ん…はぁ」
それでも、段々と気持ちよくなってきた。
軽く揺さぶられている感覚も心地よい。
「あぁん…、ふぁ…、やっ!」
「くぁ…」
先輩は私に覆いかぶさる格好になった。
濡れたシャツの冷たさをわずかに感じるが、あまり気にならない。
それほど、先輩の体は温かかった。それに私自身、体が熱くなっていたのかも知れない。
荒い息を耳元で感じた。
私は急に、何かすがりつくものが欲しくなったので、先輩の背中のシャツを掴んだ。
ずんずんと強く突かれるたびに、
「はぁんっ!」
と、また変な声が出る。恥ずかしいのだけれど、気持ちよすぎて止められない。
下のほうからするぬちゅぬちゅ、という音も拍車をかける。
足全体に力が入り、ますますつま先が鋭く尖った。
なぜだか分からないけど、涙が滲んでくる。
「…先輩…、もう無理ですぅ…、ぁんっ!!」
先輩は返事をせず、私の唇をぺろっ、と舐めると舌を入れてきた。
夢中になって、舌を絡め合わせる。
「ぷはぁッ!」
唇が離れると、私は不足していた酸素を一気に吸い込んだ。


「んぁっ、ふっ」
テンポよく突き上げられている状態がどのくらい続いただろうか。
急にペースがアップした。
「あぅんっ!はぁッ、はぁッ…、んんぁ!」
さっきから滲んでいた視界が、さらに滲む。
さらに快感が大きくなっていき、全身にぐっ、と力が入った。先輩のシャツを掴む力もますます強まる。
――もう、限界かも…。
「んんんッ!!」
気持ちよさが最高に達してくると、私のナカがびくびくっ!と痙攣して、内股から足にかけてすごい力が入った。
力みすぎて、息をするのさえままならない。
握っていた先輩のシャツをぎゅっと握って耐えた。
「くっ…うあ!きっつ…」
ポピィ先輩が微かに喘いだ。
「ごめ…、中に…しそう」
私は何も考えられない状態だったけど、その言葉を聞いた瞬間、パッと頭が働いた。
――『中にする』ってことは…、『出す』ってことだよね。それって…。
「いっ、いやぁ!だめです…っ、だめぇ!」
肩を押して先輩を引き剥がそうとしたけど、今の私の力、普段以下の力ではびくともしない。
先輩は小さく、
「うあ…っ!!」
と呻くと、腰をぐっ!と強く打ち込んだ。
「あぁあ!!」
私の体から力が抜けていき、さっきのように体ががくがくと震えた。
ナカが熱いもので満たされていった。
震えが治まるのを待ちつつ、呼吸を整える。
私は先輩の重みを感じながらしばらくそうやっていると、
「…んっと」
と、先輩は体を離して私の横に寝転がり、ふう、と息を吐いた。
そして、寝息を立てて寝てしまった。
「………」

――先輩、寝ちゃった…。何だかなぁ。
とりあえず私も寝たいと思ったけど、この体では服を着直すことさえ無理だ。
ゆっくりと、先輩を起こさないようにソファを離れ、簡単に体をきれいにした。
ティッシュで内股周辺を拭うと、どろりとした白いものと少量の血が付いている。
「うわぁ…」
私はそれらが何かをはっきり認識すると、ひとりで顔を真っ赤にした。
独特の匂いが鼻をつく。
――とりあえず、シャワー借りよっと。
脱ぎ捨てた衣類をかき集めると、先輩を起こさないように抜き足差し足でそれらを抱え、風呂場を探しにドアを開けた。



「おい」
――んー…。
「ナミ、起きろ」
――目覚ましがポピィ先輩の声でしゃべってる…。こんな素敵な機能、付いてたっけ…。
「起きろってば!」
「うわぁ!!」
がばっ!と首を上げると、目の前に先輩の顔があった。
「ひゃおぅ!!」
思わず体を仰け反らせ、まわりを見渡すといつもの自分の部屋とは全然違う。ここはどこ?
――あー、そっか。私、昨日ポピィ先輩のうちで…。
耳と顔に血が集まって、みるみる熱くなったのを感じた。


「あー、そのー、えとー、…おはようございます」
先輩は鬼気迫った表情で、私の両肩を掴み、
「俺…、昨日何かしただろ?ハッキリ言え」
今朝起きて、周りの状況から自分が酔った勢いでとんでもないことをしたことに気づいたらしい。
「い、いいえ、特に何もー」
「正直に言え!!」
私はつい気迫に気圧されて、正直に言ってしまった。
「……しちゃいました」
口に出すのも恥ずかしく、つい視線が泳いでしまう。顔もかぁーっ、と赤くなった。
しばらく自分の手元を見ていたけれど、先輩の反応が気になって上目遣いでちらりと見てみた。
――!!!
先輩はありえないほどネガティブなオーラを漂わせていた。
暗い。キノコが生えてきそうなほどだ。
おまけにしゅー…と音を立てて、生気が抜けていっている。手先まで血の気が引いてしまっていて、青い。
――あー、やっぱり言うんじゃなかったかなぁ…。
「…本当…、すまん…」
ポピィ先輩が小さく呟いた。
「じゃあ…、責任とってくれますか?」
「え?」
私はきっと顔を上げて、先輩の目を見た。
こういう時は、目を見て話さなくてはいけないと思ったのだ。
「赤ちゃんできちゃうようなことされたんですから、責任とって私と付き合ってくれますか?」
「…本気か?お前」
お互い、しばらく目をそらさずにじぃっと見合った。そらしたら負け、という雰囲気だ。
「本気の本気です。私は昔っからポピィ先輩ひと筋です。それに、」
一呼吸置く。
「昨日の事だって、そんなに嫌じゃありませんでした」
先輩の青い顔に徐々に赤みが差してきたかと思うと、ふいっと目をそらされた。
「お前が嫌じゃなくても、一般常識からするとだな…」
「先輩が嫌だったら、別にいいです。昨日の事はきれいサッパリ忘れますから。私、立ち直り早いし、忘れるの得意だし」
私は先輩を安心させるために、少し微笑んで見せた。上手くできた自信はないけど。
まだ先輩は顔を赤くして目をそらし続けている。
しばらくして小さくため息をつくと、
「…こうなったら、責任取るしかねーだろーがっ」
と、呟いた。
「!!」
私の心の中で何発もの花火が上がり、『バンザーイ!!』『バンザーイ!!』という声も響いた。
そんなこんなで、何年越しの片思いがようやく実った。


睡眠不足でふらふら、お風呂にも浸かれてない状態だったので、仕事は休むことにした。
何より、この体調に伴わないハイテンションで仕事は無理だ。
適当なお店で軽く朝ごはんを食べ、家に帰った。
「ただいまぁー」
家に帰ると、お姉ちゃんと誰かの話し声がする。声を聞く限り、男の人みたいだ。
「お姉ちゃーん?」
リビングを覗くと、お姉ちゃんがお客さんと話していた。
――あれってリーヤ先輩…?じゃないよね…。雰囲気似てるけど。
「あー、ナミ!あんた、昨日の夜、どうしたのよ!?」
お姉ちゃんの声に反応して、その人が振り返った。
「あ」
「ん?」
確かこの人は、リーヤ先輩そっくりのお兄さんだ。
うらら学園に通っていた頃にちょこっと見ただけだけど、思い出した。
「お姉ちゃん、どうしたの?お客さん」
「お客さんじゃなくて、リーヤくんよ!昨日街中でバッタリ会ったのよ。ねぇー、リーヤくんっ」
「マリンちゃん、相変わらず可愛かったからすぐわかったよー」
「もうっ!リーヤくんったらぁ!いやんっ」
お姉ちゃんはそれがリーヤ先輩じゃないとは知らずに、幸せそうにいちゃついている。
これは何も言わずに、勘違いさせておいたほうがよさそうだ。
「…じゃあ私、ちょっと寝るね」
「待ちなさい!あんた昨日、どうしたのよ」
「と…、友達のうちでお喋りしてたの」
「…ふぅ〜ん。まぁ、いいけど」
疑い深そうな目だったが、許してくれた。
「失礼します、リーヤ先輩」
「おっ、おう」

部屋のドアを閉め、バッグを下ろすと、一気に体の力が抜けた。
お風呂に入る気力はない。
――まあ、いっか。ちょっと寝よう…。
服を着替えるのも面倒くさくなり、そのままいつものベッドにごろんと横になった。
やっぱりまだ、異物感が拭えない。
そういえば、先輩の携帯番号をまだ自分の携帯に登録していないことに気付いた。
教えてもらった日から登録するのをすっかり忘れていた。
――『ダーリン』なんて名前で登録したら怒られそうだなぁ。
そんな勝手な想像をすると何だか可笑しくなって、ひとりでえへへ、と笑った。