今日という日の主人公は、どうやら僕ではないみたいですね・・・
と思いつつ、セラヴィーは長い時間花嫁の支度が終わるのを待っていた。
とは言えこういう事をあえて魔法でやらない彼女がかわいらしくも思える。
時間を持て余し、時計を見るが、式まではまだ時間があった。
招待客の姿もまだないし、静かだ。
・・・どうにも落ち着かない。
そわそわしながら歩き回った後、セラヴィーは今日の舞台である教会の前で足を止めた。
ギィと木の扉を開いて、そっと中に入ってみるが、やはり中には誰もいない。
ただステンドグラスからはきれいな光が差し込んでいた。
彼は何列か並ぶ席の最前列に座り、ふぅと一呼吸をつく。
なんだか嘘みたいですね。
そんな事を思う。
子供の頃からの夢が、今日、叶うなんて。
・・・。
ハッ、ひょっとしたら夢オチなんじゃ・・・
そこまで進んだ彼の想像も、次の瞬間には吹き飛んでしまった。


ガタン、と響いた音に驚いて、セラヴィーは顔を上げる。
そして目に映ったのは、今日の主役の姿だった。
「なにやってんのよ。それよりどう?思ったより早く終わったわ」
そう言いながら純白のドレスを身に纏った彼女は、ゆっくりと彼に歩み寄る。
どろしーちゃん・・。
一瞬息が止まるような思いがした。
天使みたいですね・・。
そして突然気恥ずかしさと、妙な緊張感に襲われる。
「・・・今日くらい金髪にしたらいいのに」
ドカッ
間髪いれず、彼女はセラヴィーの顔面に鉄拳を入れ、怒鳴りつける。
「あんたねえ!!結婚、破棄するわよ!?」
「じょっ、冗談ですってば!」
「・・・どーだか」
殴られた頬をさすりながら、つい憎まれ口を叩いてしまう自分を恨めしく感じた。
しかし・・・これではいつもと同じ。
でも今日は違う。特別な日。
セラヴィーはそれを思い、決心を固めた。

今までずっと言わずにいた・・・正確には言えなかった言葉。
ふてくされたままのどろしーに、セラヴィーは歩み寄る。
そしてそっと、その手を取った。
「どろしーちゃん」
「・・・何よ」
「・・・」
男でしょう、セラヴィー!と、彼は心の中で自分に喝を入れる。
怪訝そうなどろしーを前に、一呼吸おいてから彼は一気に心の内を吐き出した。
「・・・僕はあの日から、どろしーちゃんをお嫁さんにするのが夢でした」
「セ、セラ?」
予想していなかった言葉に不意打ちを食らう。
普段あまり見ないような真剣な面持ちが、どろしーを動揺させた。
「魔法だって勉強だって・・・なんだって。
僕はただ君にふさわしい男になりたいと思ってやってきたんです。
どろしーちゃんは怒ると思うけど、世界一の称号なんていりませんでした。
僕はもうずっと、君だけを見てきたんです」
「セラヴィー」
彼女の瞳が揺らいでも、彼の言葉は揺らぐ事無く続いていった。

「どろしーちゃん。僕の夢を叶えてくれて・・・
僕のお嫁さんになってくれて、ありがとう」
「・・・」
「黒髪だってなんだって、どろしーちゃん・・・
今日の君は、世界で一番きれいな花嫁さんです」
「・・・」
「僕の、花嫁さんです」
どろしーは静かに、涙をこぼした。
しかしそれより先に、セラヴィーの瞳からは大粒の涙が溢れていたのだが。
彼女はそれを見ると、初めて自分から彼の胸に身を預けた。
セラヴィーはせっかくのドレスや髪が崩れないように、ゆっくりと抱きしめる。
「セラヴィーがそんなこと言うなんて思わなかったわ」
「・・・僕も男ですから」
「なにそれ」
涙声でそう言って、どろしーはクスッと笑みをもらした。
セラヴィーは彼女の言葉を聞き、顔をまっかにさせる。
彼女には見えないけれど。

「どろしーちゃんも、あんまり泣かないで下さい。
お化粧がハゲて、化け物になっちゃいますよ」
ボコッ
またしても鉄拳が繰り出され、セラヴィーのみぞおちに入る。
「他に言い方はないのかしら!?
だいたい、あんたにもらい泣きしたのよ!!」
ちょっと茶目っ気をだしただけなのに・・・
「・・・いたい・・・」
セラヴィーの瞳には先ほどと違う涙が浮かんだ。
「・・・」
ツンと横を向くどろしーだったが、少しの間が空いた後、彼女の方から口を開いた。
「・・・セラヴィー」
「な、なんですか?」
うろたえるセラヴィー。
「・・・ありがと」
一瞬耳を疑う。
しかし見れば、そっぽを向いた彼女の耳までが赤くなっている。
胸がギュッと痛く感じた。

セラヴィーは再び彼女の前に立つ。
「どろしーちゃん」
「・・・」
彼女は嫌々という風に、彼と目を合わせた。
それでも彼はキッパリと言う。

「幸せにしますから」
「・・・はい」
そして花嫁は確かに頷き、はにかんだ笑顔を向けたのだ。