岡ひろみは、いま悪い夢でも見ているのだと信じ込もうとしていた。
いま自分がどこにいるのかわからない。そして動きたくても動けない。
 両手首はおもちゃの手錠でベッドの柵に固定されている。
 飲酒を許された年齢になり、実際飲んでみて理解した。アルコールに自分はめっぽう
弱い。そして酒の味は苦くすこしも美味とは思わなかった。
 飲んでみるとものの見事に酔っ払ってしまった。胸が苦しい。頭がふらふらする。顔も体もかっかと火照る。
 一次会で酔いつぶれてしまったのは記憶している。マキが心配してあれこれそばで声をかけてくれた。タクシーに乗せて
もらったこともおぼろげながら覚えている。
 ところが気がつくと、見知らぬ部屋にいた。もっと驚かされたのは、着ていた服がハンガーに
かけられ壁にかかっていることだった。
 いまひろみは下着姿で、両手に手錠でベッドに仰向けに拘束されている。しかもこの部屋は
自分ひとりきりではなかったのだ。
「このときを・・・僕がどんなに待ち望んでいたかわかるかな、岡くん」
 一次会でも一番彼が世話を焼いてくれていた。一緒にタクシーに乗り込んだのも彼だった気がする。
おそらくここは彼の住まいだ。
「悪ふざけはやめてください・・お願いです。あたしを家に帰して・・」
 ひろみは部屋の主であろうこの人物に必死で哀願する。
「バカなことをいっちゃいけないよ。ふざけてなんかいない。僕は本気だ」

 声の主は、もと西高新聞部部長、千葉鷹志だった。現在は大学生で将来はジャーナリストを目指している。
「いいもんだねえ。動けない岡ひろみってのも」
 上機嫌な千葉は、慣れた手つきですでに備え付けられたビデオカメラや照明のチェックに余念がない。
「心配しなくても、その手錠は内側にスポンジが貼ってある。君の大事な手首を
傷めたら大変だ。今後の選手生命に関わる・・クィーンズカップ初代女王にそんな
恐れ多いことはできないよ」
「・・あっ・・」
 スポットライトの明るい照明がひろみに目に入り、思わずひろみはうめいた。
「ああ、ごめんごめん。まぶしかったかな?これでよしと」
 どうやら録画を始めたようだ。小さな赤いランプが点灯している。
「ことわっておくけど叫んでも無駄だよ。防音は完璧。学生にしてはけっこういいとこに
住んでいるだろう。まあ散らかっているのが難点かな。さあて乾杯するか」
 叫ぶも何も、恐怖と混乱でひろみは声が出せない。両手首をゆする。ガチャガチャと手錠が金属のぶつかる
いやな音を立てる。千葉は折りたたみのイスを持ってきてどっかとひろみの枕元に座った。
「ようこそ岡くん。今夜は素晴らしい記念の日になるよ・・」
 千葉はひとりワイングラスをかざして、一口あおった。 

「いいよ。すごくいい。口をふさがなくても静かにしてくれているのがとっても
いいなあ・・・それとも僕がそんなにこわいのかな?」
 千葉は普段の様子となんら変わらない。酒に酔っ払って正気を失っているとも
思えなかった。
「ちっ、千葉さんっ!どうしてっ!どうしてこんなことっ」
「だってこうでもしてくれなきゃ、きみはここに来てくれないもの」
 千葉は親指を立てて天井を示した。
「古いものはきみが一年生のころのもあるんだよ。・・・やっぱりずいぶん大人
の体になったかなあ」
 すでにひろみも天井に貼り付けてあるおびただしい数の写真には気がついていた。どれもこれもテニスウェアに
身を包んだ自分の姿ばかりだ。
「僕が原稿を頼んだばっかりに試合でけいれん起こして棄権したこともあったよね。加賀の
お蘭を偵察に行ってきみがすっかり試合で萎縮して・・・ずいぶん悪いことをしたもんだ」
「千葉さんっ!」
 ひろみは千葉の一人語りを必死で遮る。
「オーストラリア合宿もニューヨーク遠征も、そしてボストンの時だって僕は君を必死で追っかけた。
・・・ずっと君だけを撮り続けてきた。なぜだかわかる?」
 千葉がグラスのワインを口に含むと立ち上がる。
「やっ・・・いやあっ!やめ・・ぐふうっ!」
 自由の利かないひろみに覆いかぶさり、強引に唇を重ねた。行き場のない
ワインがひろみの口元からあふれる。だらしなく顔を伝い落ちていく。
「ぐうっ!げほっ、ごほおっ・・」
 ひろみが激しく咳き込んだ。
「なぜだか・・わかる・・・?」 

 恥ずかしげな千葉の笑顔は、ひろみにとって恐怖の対象でしかなかった。
「・・すきなんだよ、岡くん」
 ひろみからの返事はなかった。顔は青ざめ、自由になる首を左右に振る。
「ファインダー越しなら誰にも邪魔されず、いくらでもきみだけを見ていられる。ああ、せっかくの
ワインがこぼれてるじゃないか」
 再び千葉がひろみに覆いかぶさった。
「・・・ひいいいっ!いやあああッ!」
 千葉の両手が顔を背けようとするひろみの頬を挟み込む。口元から伝い落ちたワインを
舌でなめとっていった。ひろみのあご、首筋、耳元へと千葉の舌が這い回る。
 これまで舌で愛撫されたことなどなかったひろみの全身に鳥肌が立った。冷水でも浴びせられたかの
背筋が寒くなる。気持ちが悪くてたまらなかった。
「いやああああーっ!やめてっ!やめてえええっ!」
 ひろみは両足をばたつかせた。勢いよく足を振り上げ、上半身に取り付いた
千葉を蹴り上げたつもりだった。しかし悲しいことに、酔った体にいつもの勢いはない。
「・・そんなに暴れないでよ。くすぐったい」
 千葉の眼鏡越しの瞳に、おびえたひろみ自身が映っている。
「情けないねえ。せっかく告白したって言うのにこんなに嫌われていたんでは・・
というより、ぼくのことなんか考えたこともなかったっていうのが君の本心かな?」
 ひろみの返事を待たずに、千葉は強引にひろみの唇を奪う。
「んんん・・・くうっ・・」
 苦しげなひろみのうめき声がこぼれる。
「きみの成長を記録する親切な先輩くらいにしか思っていないんだろう・・」
 一方的に唇を重ね、思うさま吸い付いて千葉はひろみの唇を開放した。


「いいや・・ちがう。うっかりしていた。ぼくはきみの大事な人、藤堂貴之の友人だ。
そうだよね、岡くん」
 千葉はひろみの頬を両側からしっかりと挟みこみ、自嘲地味に話しかける。
「あいつはどうなるんだろう、本当にプロとしてやっていけるんだろうか・・
あいつとは文通してるの?いいやそれより!」
 千葉が真顔になった。
「あいつとはもう・・ヤッちゃったの?」
 ひろみの大きな瞳に涙が浮かんできた。プロ入りを表明した藤堂は渡米し会いたくても
いまは会えない。いずれ桂コーチは、ひろみのコーチを彼に任すつもりでいる。藤堂もひろみも
お互いの気持ちはわかりすぎるほどわかっている。
 今は亡き宗方コーチもはじめはひろみと藤堂の仲を許さなかった。唐突にふたりの仲を認めた後で宗方
仁はこの世の人間ではなくなった。
 自分のおかれたいまの状況と、会いたくても会えない藤堂に、宗方に思いをはせると、ひろみは胸が
張り裂けそうだった。
 千葉がにやりと笑って見せた。冷たい笑顔だった。
「ま、それはいまから確認させてもらうから」
 ひろみは恐怖と絶望で震えがとまらなかった。
「もともとぼくはきみと宗方さんとの仲を勘繰っていたんだけどね。
どっちにしてもつらいよね。なんにも思ってもらえないのって。惨めだよ」 

 にやにやしながら千葉が立ち上がった。
「ところでさあ、岡くん。きみってお酒に弱いんだね。お父さんの晩酌とかで
おつきあいしたことないの?いいよなあ。優しいご両親の間に生まれた一人っ子って。ごく
普通のありふれた家庭。造園業を営むおとうさんと主婦業をこなす着物の似合う
おかあさん」
 千葉はひろみから離れ机の前に立ちあれこれ探している。
「なっなんでそんなこと・・」
「きみのことならなんでも知っているの。ただバイオリズム・・月経とか排卵日とかは把握していなくて。
それはこれからリサーチする。ええっと・・基礎体温計はどこだっけ。どっちみちアルコールはいっているから
今はだめか」
 うれしそうな千葉の言葉に、ひろみは愕然とする。千葉はいつから自分を「見て」いたのだろう・・?
「ジャーナリストを目指すからには、なんでも知っておかないとね。ついでにきみの尊敬してやまない宗方コーチのことも。
彼は複雑な家庭環境で育ったんだよ。きみはどこまで知っているのかな?好きな人のことならなんでも知りたいだろう?」
 振り向いた千葉の手にはメスが握られていた。顔の前でかざしてみせる。
鋭い刃が部屋のライトでギラリと輝いた。
「昆虫とか解剖学にも興味があるんだよ。これは解剖用でね・・」
 近づく千葉に、ひろみは頭を振り絶叫した。体をゆする。
「いっいやっ!なにをするの!」

 あらんかぎりの力をふりしぼり、ひろみは暴れた。手錠で拘束された両腕を振り、体をねじる。
しかし状況は変わらない。あきれた表情を見せて千葉が笑った。今度はひろみの下半身に近づく。
「心配しないで。きみを傷つけたりはしない。危ないからしばらくじっとしていてくれる?」
 千葉の手が、ひろみのスリップのすそを引きつかんだ。
「きゃああああああああああッ!」
 つんざくようなひろみの悲鳴が響いた。千葉が笑い声を上げる。
「ははは・・・なんだ。ずいぶん大げさだな。きみにはさわってもいないのに」
「・・ううう・・」
 千葉は、ひろみのスリップにメスを入れる。かすかな音を立てながらスリップは
あっという間に切り裂かれてしまった。
「記念にね、どうしてもこいつをいただきたいんだよ。両手がバンザイの形で縛られていたら
切ってあげるしかないよね。さてとあとは・・・」
 千葉の手がひろみの肩にのびる。
「ひいっ!」
 脇を切り裂かれた側の肩ひもを切られ、ひろみが叫んだ。
「そうそうあともうすこしだ、もうすこし・・じっとして・・」
 ひろみは横向きになり、必死に肩ひもが残された側をベッドに押し付けた。
脇と片方の肩ひもを切り裂かれたスリップが、ひろみの体をすべり落ちる。
「そんなことしたってムダだよ。どこを切ったっていいんだから」
 千葉はちゅうちょすることなく背中に残っていた肩ひもに手をかけると、メスを差しこんだ。
「い、いや・・いやあぁぁ・・」
 ひろみは自由になる限り体をねじって涙に濡れた顔をベッドに押し付けた。そのあいだに千葉は
ひろみの体に敷かれたスリップを抜き取る。
「まずは第一関門突破ってとこか・・」

 千葉はしばらく手にしたスリップをうっとりした様子で眺めていた。
「・・・大事な戦利品だ。大切にさせてもらう」
 千葉はスリップに顔をうずめる。
「今夜はすることがすんだら家に帰してあげるよ。だからねえ、あとは切っちゃダメだよな」
 千葉は自由にベッドと机の間を往復する。スリップを机の上に投げ出すと今度は携帯できる家庭用の小型ビデオカメラを
手にしていた。
「さあ!こっからが本番だ!」
 うれしそうな声だった。ベッドにかけあがる。
「いやっ!いやあああっ!」
 ひろみの両足を体側でつかむ。ねじって横向きになっていた体を仰向けの姿勢に
変えさせた。
「やめてっ・・やめてええええええ!」
 ひろみは悲鳴をあげ、足をばたつかせたが、簡単につかまってしまう。片手にビデオカメラを抱え
不安定な状態になりながら、千葉は馬乗りになる。成人男性にまたがられ、押さえつけられると
身動きはままならない。
「あはは、これじゃあロデオだよ・・よく暴れるねえ、ははは」
 テニスの試合と同じだ。いつものように千葉の構えたビデオカメラが自分に向けられている。
ただ、こんなに近くからとらえられたことはなかった・・!
「きゃあああああああああああああ!」
 ひろみの絶叫が部屋に響いた。 

 千葉は、ひろみのブラジャーを乱暴にずりあげた。手錠で拘束されていては
隠すこともできず、まだ誰の目にも触れさせたことのない裸の胸がさらされてしまっている。
しかも録画されている。ひろみの目から滝のように涙があふれた。
「・・かわいいね・・ほんとうにかわいいよ、岡くん・・」
 千葉は隠しておいた宝物をこっそり取り出してひとり喜んで眺めている子供のようだった。
はしゃいでいる。息も荒い。
「へーえ、けっこう色白なんだ。乳首ってこんなにちっちゃくて、かわいい!」
 手のひらがひろみの片方の乳房を捕らえる。
「あああッ!」
 悲痛な声を上げうめくひろみを尻目に、手の動きは止まらない。ふくらみ全体を手のひらにおさめ、
撫で回した。
「すごいや、吸い付いてくる・・やわらかくって気持ちいいよ」
 撫でさすっているだけでなく、強弱をつけて揉みしだく。
「いやっ・・いやいやっ!いやああああ!」
 望んでいなくても刺激を与えられれば体は反応してしまう。悪寒におそわれてひろみは激しく首を振った。
「あれあれ?乳首が飛び出してきたぞ・・きみも気持ちがいいのかな、ねえ岡くん」
 刺激でしこってきた乳首をつまみあげ、千葉は指ではじいた。 
「うっ・・うううーっ!」
 苦悶に満ちた悲痛なひろみのうめき声に対し、千葉の声は興奮しうわずってくる。
「さわられてるほうの乳首だけ固くなるなんて・・・感じてくれてるんだ・うれしいねえ」

 千葉はひろみに馬乗りになったままで腕を伸ばす。その手にしている大事なビデオカメラをベッドの端に
そっと置いた。
「やっぱり両手を使いたいよね。・・ああこれも危ないから」
 先刻スリップを切り裂いたメスをシャツの胸ポケットから取り出す。
「こんな危ないモノ・・もういらないよね」
 こちらは座っていたイスに投げ出した。
「きゃああっ!」
 ひろみの上に千葉が勢いよく飛びつき重なった。ひろみの素肌の上に重ねられたシャツがごわごわと硬くて痛かった。
千葉の両手はそれぞれ、ひろみの両の乳房をとらえる。
「いやああっ・・・やめてっやめてええっ・・ああっ!」
 慣れた手つきだった。こわごわ触れてみるというよりは、大胆に攻めている。自由になった両手が
リズミカルにとらえた胸のふくらみをもむ。
「・・・じつをいうとね岡くん、僕は経験済みだ。取材で風俗店に通っているから。社会勉強のひとつさ。
セックス産業の実態調査だよ。金で女性の体は覚えたわけだ」
 千葉はすでに飛び出した乳首への刺激も怠らない。指でつまみあげてはぐりぐりと押し込む。指と指とはさみあげはじく。
「あああっ・・」
 両腕の自由を奪われたひろみは、思うようにもてあそばれる。強くもまれ肌がうっすらと赤くなった。
「気持ちいいもんだねえ、プロ相手だとこうも純粋な気持ちにはなれないよ。こんなに恥ずかしがって
くれちゃって。きみってほんとうにかわいい・・大好きだよ。岡くん」
 恥ずかしがっているのではない、嫌がっているのだ。嫌なのだ!恋愛の対象として考えてもいなかった
男性に一方的に告白されても、触れられてもひろみはすこしもうれしくなかった。
(・・夢なら、覚めて・・誰か、たすけて・・)
 首を振るひろみに構わず、千葉はひろみの胸の谷間に顔をうずめた。硬い異質のメガネのフレームがひろみの
肌に触れる。
「ひいいいいいいっ!いやああああ!」
 望まない愛撫にひろみは悲鳴をあげるしかない。


 ひろみの叫び声にゆっくりと頭をもたげ、千葉は笑った。
「・・・ああ、ごめん。メガネが冷たかったのかな、ごめんね岡くん・・これは失敬」
 失敬・・・懐かしい言葉だ。でもひろみの記憶では千葉の言葉ではない。西高テニス部の
男子の顔であり生徒会長をつとめた藤堂貴之がよく発していた。自分はおろか、お蝶夫人と呼ばれる
竜崎麗香に対しても。高校時代の思い出となって久しい藤堂の言葉だった。
「うっ、うううっ・・・」
 いやがうえにも藤堂が思い出されてしまい、ひろみがすすり泣く。困ったとばかり千葉がメガネの
ふちを手でこする。
「・・・見てのとうり近視でね。きみの写真を撮ろうにも、きみの試合をビデオに録画しようにも
メガネがないときみがはっきり見えないんだよ・・・それにこんな近くできみを見ることなんてなかったもの
・・・きみのそばにいることなんてなかったもの・・・!」
 ひろみのうえにのしかかったままで千葉がメガネをはずす。テンプルを片手で乱暴にたたむとひろみの頭のそばに置いた。
自由の利かないひろみをあざ笑うかのようだった。
「すきな人には素顔を見てほしいんだよね」
 ひろみの高校時代から知り合いの千葉だが、ひろみは千葉のメガネをはずした顔など見たことがなかった。
プライベートでのつきあいなどまったくなかったのだ。
「よっと」
 千葉が身を乗り出す。ひろみの体にのしかかったまま這いあがる。
「・・・ひいっ!」
 ひろみは顔を背けようとするが、そうはさせじと千葉の両手がひろみの両の頬を挟み込む。
「ただ見ていれば満足できるってのはやめにした・・・静かに見守って応援するのもやめにした・・・
それって苦しいんだよ、とってもね。いまだってきみのそばにいるのは、ぼくひとりなのに・・・」

 千葉がひろみの顔に強引にかぶさる。すでに何度重ねられたかわからない一方的な口付けの程度が
ひろみの意志に関係なくエスカレートしていく。
 閉じられたひろみの唇を割って、千葉の舌が入り込む。遠慮なく歯列をなぞり好き勝手に動きまくる。
息の続く限り、千葉はひろみの口の中で舌を泳がせた。
 しかしひろみは力の限りを尽くして、千葉を払いぬけようと首を振る。力と力でのぶつかりあいに勝利していながらも
千葉の瞳に怒りがみなぎっていた。
「・・・なんでっ!きみは・・わかってくれないんだ!」
 突然吸い付いた唇を放し、すごい剣幕で千葉が叫んだ。ひろみの耳元で怒鳴り散らす。
「いやですっ・・!あたしはいやですっ!」
 ひろみは左右に激しくかぶりを振る。絶え間なく音を立てていた手錠の金属音がさらにはやくなる。
 千葉は、両手でとらわれながらも必死で顔をそむけ、抵抗するひろみにいらだっていた。
「・・考えてごらんよ岡くん!宗方さんはもうこの世にいない!宗方仁の亡霊を
追い掛けまわしている藤堂だってきみのそばにはいない!あれだけプロを嫌っていた
お蝶夫人だって、緑川蘭子と一緒に日本を飛び出して行った!尾崎だって学業が忙しくて
テニスは引退したも同然だ!みんな、みんな・・・かわっていくんだよ!」
「いやああああ!」
 ひろみの絶叫に、千葉は怒号でこたえた。
「破局なんてよくある話さ。つきあっていた人と別れるなんて!ほかの人と・・・友人とひっついてしまう
ことなんてよくあることさ!若いんだからカップリングがかわることなんてよくあることさ!」
 インテリな印象の千葉からは想像できない下品な言葉に、ひろみはおびえる。
「・・・きみがいやでもぼくを見てもらう・・・」

千葉が荒げていた語気を弱め低くつぶやいた。ひろみは首を振った。震えがとまらなかった。
がちがちと歯の合わさる音がかすかにもれる。千葉が目を閉じた。
「いいんだよ・・・」
 ややあって口元に笑みを浮かべながら、千葉が目を見開いた。その瞳は輝いていた。狩りでも
はじめるかのような鋭い視線だった。
・・・いつもこんな目で・・・あたしを撮っていたの!?ひろみは恐怖で全身に鳥肌がたった。
「きみがいやでもいいんだよ。ぼくがきらいでもかまわないよ。・・・いまきみにふれられるのは
このぼくだけだ!」
 当然といえば当然ながら、ひろみの体に残された最後の下着を千葉が脱がせにかかる。三角形の
布の二つの頂点に手を伸ばすと、力任せにつかみそのまま勢いよく引きおろした。
「ああああっ!いやあああ!」
 自由の利かない、ベッドに拘束されたひろみはこれ以上脱がせられないようにと
けんめいにヒップをベッドに押し付ける。
「あはは・・やめなよ。もう丸見えだ」
 千葉に指摘されるまでもなくひろみにもわかっていた。下半身がむき出しにされて外気にふれている。
うすい恥毛に冷たい風がそよいでいる。
 ふとももからひざ、ふくらはぎから足首へ身に着けていたはずのショーツは抵抗もむなしく
あっというまにはぎ取られてしまった。
「ああ・・・」
 それまでわめきちらしていたひろみは、ショーツを脱がせられて急にぐったりとしてしまった。
隠すこともできず、足を固く閉じて、視線からすこしでも逃れるように横向きにからだをねじるしかない。
「これはもらえないからなあ。残念だ」
 勝ち誇った千葉の声がひろみをうちのめした。
 
 身を守るものすべてを奪われてしまって絶望したひろみに対し、千葉は容赦をしない。
「・・すべて・・すべてこれからだよ」
 千葉の笑顔が恐ろしく感じられ、ひろみは必死で顔を背けた。唇をかみしめることしかできなかった。
恐怖で歯の根が合わず、がちがちと鳴る。千葉がひろみのショーツを投げ捨てた。
「きみとふれあう素晴らしい人生がこれからはじまる・・・」
 千葉が急いでシャツを脱ぐ。下着も豪快に脱ぎ去った。空手の有段者だという千葉の上半身は見事に鍛えられていた。
その分厚い胸板は、ひろみにとって恐怖の対象でしかなかった。
「あああっ!」
 ひろみのこん身の力をこめてかたく閉じられた両足が簡単にひろげられる。
「いやああああ!いやああああッ!」
 けんめいに体をゆするが、自由を奪われた体で振り払われるわけがない。
「ちょっとかわったことをしてみるよ。そうしたらきみも盛り上がるんじゃないかな」
 暴れるひろみにかまわず、千葉がひろみの足を縛る。片足ずつひざを折り曲げて身に着けていた服を巻きつけ
足首と太ももを折り重ねて縛る。シャツの袖でしっかりと縛られた片足。伸ばされるだけ伸ばされた下着で縛られた
片足・・・両足を縛り終え股間に取り付いた千葉が声を上げた。
「やあ、これは!すごくいい眺めだ・・・」
 ひろみが必死で蹴り上げ、ばたばたと動かしていた両足の自由がきかなくなった。
「いや、いや・・・いやあぁ」
 ひろみは終始泣き叫んでいた。

 泣き喚くひろみを尻目に、ひとり興奮した千葉が動いている。その場から
一歩も動きたくないとばかりに体を伸ばして、愛用のカメラを引きつかんだ。
「いいよ、ほんとうにいい!こんなの絶対に撮れないよ!」
 足を閉じさせないように股間に割って入った千葉が、カメラマンの本分を尽くすとばかり
シャッターを切った。切り続けた。
「フィルムにビデオに・・・あらゆるメディアで残さないと!」
 シャターの鋭いフラッシュがバチバチと何度もたかれる。嬉々としてカメラを取り写真に収める
光景は異常だった。まさに変質者だ。
「奥に黒いカーテンがあるだろう・・・現像もここでやるんだ。きわどい写真なんていくらでも
撮れる!きみのすべてが撮れる!」
 カメラのシャッターからはなされた千葉の手が、ひろみの下半身に伸ばされた。
いつもカメラに触れる指がひろみの肉の綴じ目をめくりあげ、無遠慮に押し広げる。
「・・きゃあああああっ!」
 痛みに顔を歪ませ、はじかれたようにひろみが背をそらした。
「ちょっとさわっただけじゃないか。そんなに痛いのか・・湿ってないからなあ」
 千葉の口元はだらしなくほころんでいた。