その日の朝は昨夜からの雪が降り積もっていた。朝から宗方仁の自宅はにぎやかだった。
彼の親友であり、いまは出家した桂大吾が訪ねてきたのである。
澄んだ力強い読経の声を上げ、修行の錫杖の硬い金属の音を響かせて、わら草履で
雪を踏みならして大吾がやってきた。
何年ぶりの再会だろう。しかしふたりは手紙で別れてからのそれぞれの人生を
語っていた。
酒を酌み交わす。語りあいはいつまでたっても途切れない。とうの昔に日は落ち、外を静かな夜の闇が支配している。
「・・・昼間訪ねてきた岡ひろみ。宗方、あれがお前が見つけた選手か」
ふたりの話題はいつもテニスが関わっている。いや岡ひろみのことといってよい。
「宗方仁が心血を注いで育てる決心をした岡ひろみ、同じ西高ならテニスの世界ではすでに名が
知れ渡っていた竜崎麗香でもなく、身体的に恵まれた長身のいもうとの蘭子でもなく」
異母妹の蘭子の名前を聞いてほんのすこし宗方の眉がぴくりと歪む。
「彼女たちではなく、お前が選んだのは岡ひろみ・・・あの選手か」
「うむ」
小さく返事をかえし宗方が杯をくいとあおる。
「たしかにあれはすごい選手だ。すごい選手になる・・・しかし・・・」
一升瓶から清酒をグラスになみなみとあふれんばかりに注ぎ、桂大吾は
みるみるうちに飲み干していく。
「くはっ・・もっとも俺は、お前からの手紙を読んでいる間、岡という選手はずっと男だと思っていた」
「はっはっは・・・」
大吾の言葉に屈託無く宗方が歯を出して笑う。
鬼コーチとあだ名されるこの男が快活に笑顔を見せることなど滅多にないことだ。
「だがな宗方、女性プレーヤーを育てるのは難しいぞ」
「・・・ああ」
「頭を剃って俗世を捨てた俺が口にすれば説得力があるかもしれん。男女に関係なく
色恋沙汰は難しい。女の方が被害者になりやすい。苦労して育ててもいずれやれ
男にほれたはれたで迷うときが来る。・・・いや」
たくましい腕が、瓶からまた酒をグラスに注ぐ。
「師であるお前もすでに迷っているのではないか・・・」

低くおさえた声だが、雷の音でも聞いたかのように、宗方が身を固くした。
「・・・ひょっとしてすでにもめているのではないか?」
返事がない。
庭の垣根の枝に降り積もっていた雪が、バサリッと音を立てて落ちた。
しばらくの静寂が二人を包む。無言の宗方に大吾は喉をあらんかぎりの酒で
潤して時間をつぶす。
大吾が降参した。
「話したくないならば、べつにかまわん・・・」
図星だな、大吾の目が無言でそう語っていた。
「・・・すこし風に当たりたい」
宗方が立ち上がった。障子を開き、縁側に立つと外の木戸まで押し開く。
「おい、冷えるぞ。体にこたえないか」
「平気だ・・・」
宗方は大吾に背を向け冬の寒空を仰ぐ。
「・・・あそこは星がよく見えた」
意味の分からぬ宗方の独り言を肴に、大吾はグラスをあおる。
「大吾、今まで手紙では知らせていなかったことがある・・・お前には聞いてもらいたい」
背中を見せていた宗方が向き直ると静かに歩み寄ってきた。



宗方が大吾と向かい合わせに座った。大吾は黙って酒をすすめる。宗方もまた無言で応じる。
袈裟をまとった僧侶と着物姿の青年ふたり、和服を着ていると年齢よりも年長に見える。ややあって宗方が盃に口をつけると、静かに話し始めた。
「・・・俺は病に倒れるその日まで、純粋にテニスに打ち込んでこなかった。テニスができなくなってはじめてそのことに気がついた。そしてその日まで本気で人を愛したこと
など無かった」
大吾は相づちも打たず無言でひとり手酌で豪快に飲んでいる。
すきに語れ、なんでも聞いてやる・・・そんな親友の姿勢を感じ宗方が静かに笑い目を閉じた。
「いや、育ててくれた祖父母やお前や、さいしょ何も知らずに慕ってくれた蘭子、そして死んだ母
・・・記憶の中でいつも泣きあかし、さいごは病の床についていた母は愛していた・・・」
「俺はお前が人を愛さない冷血漢だと思ったことはない。それに学生時代は注目の的だった。
もてていた。まぁ、俺にはまけるが」
「・・・そんなこと俺はしらん。大吾、お前酒がまわったな」
酔っぱらいの戯れ言とばかり、宗方が一笑に付す。
「ずっと・・・ただただあの人を憎んでいた。母と俺を捨て、他の女と一緒になった父を。自分だけ
幸福な生活を手に入れた父を!」
宗方の口調がはやくなる。
「あの父と同じ男に生まれたことを、俺自身を憎んでいた・・・もしかしたら俺も、あの男と同じことを
するかもしれん!母のような目に遭わせるかもしれん!それなら快楽を得ることだけに溺れた方がいい!
・・・愛することはない。抱けばいい、精を放てばいい!欲望の赴くままに動けばそのあとにはつかの間の
開放感とそして虚しさだ!相手など誰でもかまわん・・・お互い抱き合って満足ならそれでいいと
本気で他人を母以外の女性を愛したことなど無かった・・・血のつながりのない異性に愛情など抱けなかった」
普段は冷静な宗方が語気を荒げている。外の冷たい空気が、明かりのともされたふたりのいる部屋すらも重くする。
「・・・肉欲をおさえることなぞできんよ。食欲、睡眠欲・・・色欲を失ったとき人間は死ぬ。仏になったときだけだ」

ごく自然に、大吾が死、という言葉を口にした。
「宗方、これまでお前が死の恐怖と病魔にたったひとりで闘ってきたことはよぉくわかっている。だが俺は
何も出来ん。あまりの理不尽さに憤り、こうして仏門に入ったがお前を救えん」
宗方が首を振った。手にした盃の酒があたりに飛び散る
「いや!違う!俺を救えるのはお前だけだ!大吾!」
「・・・なにがあった?誰と寝た?」
単刀直入な問いだった。
するどい大吾の眼光が宗方をとらえる。
「う・・・」
宗方が返す言葉を無くし、静かになる。
「はっはっはあ、お互いに抱いた女人の数を自慢しあうほど若くも無かろう。
・・・もっとも俺はもっぱらお菊さんが相手だがな」
お菊さんと呼べばまだ露骨さは控えめになるが、肛門のことを菊の花にたとえて菊座と呼ぶ。
僧侶が平然と、同性同士のアナルセックスを告白した。
「くくく・・・」
宗方は笑いをこらえる。
「修行している坊主だって肉欲からは逃れられん。お前も話して楽になれ!俗世の
色恋沙汰の話が聞きたい。特にお前のは」
おどけてみせる大吾につわれて笑いながら、いつのまにか宗方は平静を取り戻していた。
「ふふふ、いってくれる。そうあれは夏だった。西高のコーチに就任して2年目の
夏だった・・・・あのときはうれしかった。岡がやっと自分のテニスをつかみたいと
自分からいってきてな、すべてがこれからだと・・・おそらく手紙で知らせただろう」
「ああ」
「ようやく見つけて磨きをかけようとしたダイヤモンドの原石がただの石ころかも
しれんと不安になったのもあのときだった・・・」
夏の空に天の川が輝いている。
着物に着替えた宗方は、部屋で一人夜空をにらみつけていた。くわえたタバコを思わず噛みしめる。
「恋など・・・まだはやすぎる!岡・・・」
未成年の生徒たちのいる手前、宗方はプライベートの時間だけタバコをふかす。
今夜の宗方はひどく機嫌が悪かった。いやふさぎこんでいた。絶望に近かった。
タバコがまずい。まずくてもふかさずにはいられない。
「お前は、俺と命がけの綱渡りを始めた・・・それなのに!」
ブツブツひとりごとをつぶやきながら吸い殻だけが増えていく。
西高男女テニス部の夏山合宿、初日の岡ひろみのコンディションは最悪だった。
体のキレが悪い。集中していない。
ひろみを特訓するつもりだった宗方は、出鼻をくじかれた。
(いったい、どうしたんだ・・・)
遊びで来ている者はここにはいない・・・まして岡ひろみが!
「あああ、何回いえばわかる!」
宗方は岡と向き合ったときにすべてを悟った。その原因にすぐに気がついた。
「あの目・・・」
遠い記憶の扉にしまい込んだ、母の目だった。自分と息子を捨てたあの男のことだけを想っていた目と同じだった。
「せっかく見つけた宝石が!大事な俺の・・・原石が磨く前に!・・・
粉々に砕けてしまう!」
両の拳を握りしめる。味わうゆとりのない、惨めな末路をたどったタバコが灰皿にねじ込まれる。
・・・コンコン・・・
「はい・・・」
ドアをノックする音に宗方は静かに返事をする。
「・・・コーチ、岡です・・・」
弱々しいすこし怯えたひろみの声だった。
「岡か。はいれ・・・」
「はい」
声の調子と同様にひろみもまた怯えていた。縮こまって立ちつくしている。
(弱い女など見たくもない!男に捨てられて生きていけなかった弱い女は母だけでたくさんだ!)
ひろみの態度に、宗方は苛立っていた。
「まあ、あがれ・・・そこに座れ・・・」

宗方に促されたひろみはいいしれぬ不安感に襲われた。
(昼間の練習に見せた、コーチのあの悲しそうな目・・・)
昼間の練習のことを注意される、部屋に呼ばれたことでそう予想していたのだが
今は別な恐怖を感じていた。
(なに、これ・・・なんだかこわい・・・?)
部屋にふたりだけでいるとひろみは息苦しい。威圧感に押しつぶされそうになる。
(・・・いままで気がつかなかった、コーチは大人で、男の人で・・・)
部屋着のホットパンツの丈は短く、正座をして座るとふとももがむき出しになる。
妙に気恥ずかしくてたまらなかった。
宗方は動揺した表情を、ひろみに読み取られたくなかった。
照明を暗めにしているのも災いした。
「お前には女を越えてもらう・・・女が仕事なりなにかをやりとげるためには
傷つき、血を流し、苦しむことになる」
ふいに宗方の視線が、ひろみの素足に釘付けになる。
ひろみの太腿はむっちりとふくらみ、もちろん筋肉も鍛えられた健康的だった。
立派に成長した女性の足だ。
(母は19で俺を産んだ・・・)
テニスウェアの女子のスコート姿など見慣れているので何ともおもわなかった。
ひろみもまた他の女子部員と同様子どもだと思っていた。
血の半分だけつながった妹の蘭子よりも年下なのだ。
幼いと思っていた。自らが心血を注いで育てる弟子なのだ。
お互いに、目にすることの無かった私服でいることで、宗方は落ち着きを失っていた。
(母もこのくらいの年齢で男を知ったのか・・・!)
宗方の頭の中が熱くなった。
(うら若い十代で・・・あの男に抱かれたのか!)
「・・・岡・・」
「はっ、はい?・・・」
縮こまって、コーチに語るにまらせ、うなだれていたひろみは、宗方の
異変に気がつくのが遅れた。
「俺は・・・」
宗方の目がかっと見開かれる。
「俺はお前をはなさない・・・」


ひろみはあらん限りの声を出したつもりだった。
「ひいいっ・・・コッ、コーチッ・・・ああっ!」
しかし実際は、荒く弾ませた息遣いが辺りにこぼれるだけだった。
ひろみは畳の上に押し倒される。
テニスの師と信頼していた宗方が、別な意味で鬼コーチとなった。
ひろみは両手首をねじ掴まれた。
そのまま両腕を左右にひろげられる。
宗方が力任せに両手首を畳に押しつける。
「イイッ!イタッ・・コーチィ!」
ひろみの顔が、宗方の込められた強力に歪んでいた。
マッサージやフォームの姿勢の指導で触れたことのある岡ひろみの体がひどくきゃしゃに
感じられた。
(どの女も非力だ・・・)
宗方はひろみの上に馬乗りになる。
(いままでこんなことはしたことがなかったか・・・)
女とはその気があれば抱き合ったことはあった。
だが薄幸な人生だった母のことを思うと、特定の女性を愛する気持ちになれなかった。
宗方仁は幼い時点ですでに人生に醒めていたのだ。
誰かを愛し信ずることが恐ろしかった。
(あの人はのしかかられたとき、どんな顔をしていたんだろう・・)
苦痛に歪むひろみの顔が、記憶の母の顔と重なった。
「やっ・・いやですっ、はなしてください・・・コーチ」
ひろみは体を揺すって抵抗するが簡単に宗方に組み敷かれたままだ。
バタバタと懸命に暴れるひろみの体が畳を擦る。
「・・・お前はもう俺の手を取った!ほかの男の手は取るな!取ったらその時がさいご
だ、お前は引き裂かれる・・・」
語気を荒げて宗方がひろみを一喝する。
抵抗するひろみに構わず、ひろみのシャツに手が伸びる。
取りすがるひろみの手を振り払いながら勢いにまかせ、襟元を左右に引っ張る。
「イヤアアアアアアアアアアッ!」

ひろみの悲鳴がボタンが四方に飛び散る音をかき消す。
「はっ、はなしてぇ!」
なりふり構わず、ひろみは体を起こそうと暴れる。
自由になった両腕が宗方の胸を叩く。
宗方の胸板を懸命に押して払いのけようとする。
テニスで厳しい宗方の指導に付き従っていたひろみがここまで反抗することはなかった
「・・・静かにせんかっ!岡っ!」
「アアッ!・・・いやっ・・・」
鬼コーチ得意の怒号を飛ばし、今度は片手でひろみの両手首を引き掴んだ。
力ずくで畳の上に押さえつける。
残された片腕は、すぐに胸元に伸びた。
剥き出しになって晒されていたひろみの砦は簡単に陥落する。
蒸し暑い夏休みの時期の合宿となれば薄着だ。シャツの下はブラジャーのみ。
宗方はブラジャーごとひろみの胸を引き掴んだ。
布越しに触れたせいか、ひろみの乳房は固く引き締まっていた。
まだよく熟していない果実のようだった。
「いやっ!いやあああ〜っ!コーチ!・・ああっ・・・」
ひろみの息遣いが、せわしくなっている。
コーチと呼ぶひろみの声が、宗方の心に突き刺さる。
「岡!俺はお前をはなさない!はなさない・・絶対に!」
宗方は呪文のように同じ言葉を繰り返す。
「ああっ!いやっいやあ・・・やめてぇ!ああッ」
ひろみの悲鳴を無視して強弱を付けて触れた片方の胸のふくらみをぐりぐりと揉みしだく。
指をブラジャーの下へ潜り込ませて、直にひろみの肌に触れた。
「きゃあっ!・・いやっ、いやあぁぁ・・・」
張りのあるきめ細やかな肌だった。小ぶりとはいえ、膨らんだ女性の乳房だった。
頂の先端を容赦なくつまみ上げる。ひろみが身を堅くして絶叫した。
「・・・ふうううんっ!ああっ!やめて・・やめてええっ!コォチィィィ!」
すでに涙をにじませたひろみの絶叫は宗方の耳に入らない。
「はなさない・・・!」


強引に与えられた愛撫にも、刺激を受けてひろみの乳首が固くしこってきた。
その感触を指で確かめながら、宗方は執拗にひろみの乳首と乳房を弄ぶ。
大きな手のひらはラケットのグリップを持つように乳房に覆い被さる。
撫でさすり、揉みしだく。
太い指は、尖りその存在を主張した先端を挟み、つまみ上げ時には押し込める。
「はあっ・・いや、いやああ・・・アアッ・・」
ひろみの抵抗が弱くなった。
否定の悲鳴がすすり泣くような喘ぎ声に変わる。
事実ひろみは泣いていた。
死んだ母がいつも見せていた泣き顔だった。
「岡!どの男も同じだ!男はお前に同じ事をする・・・」
片手で、ふたつの丘を交互に征服した宗方は、その手をひろみの体の下へと滑らせる。
「イヤアアアアッ!」
ひろみが激しくかぶりを振った。
指が素肌の下腹部に触れ、どこを目指しているかはひろみにもすぐわかる。
ひろみのホットパンツのファスナーが乱暴に引きおろされる。
「キャアアアッ!」
宗方の指がひろみの体の中心にある裂け目をショーツの布越しに撫でさすった。
「男とはそういうものだ岡!だがお前は俺を選んだ!お前は俺だけに・・・
心も体も許したのだ!」
早口でまくし立てる宗方だが、ひろみが納得していようがいまいが関係なかった。
(お前を手に入れられるのはいましかない・・・)
「いっ、いやですっ!はなしてっ!はなしてええっ!」
ひろみは体を揺すり、まだ抵抗の意志を見せる。
宗方はひろみの両手首を引き掴んだ片手に力を込めて押さえつける。
「キャアアアッ!アアッ・・・」
痛みにひろみの顔が歪む。
ひろみがひるんだすきに、股間をまさぐっていた手は強引にショーツをめくり上げ滑り込む。
一番大事な秘所を守る布の砦はあっさりと破られる。
すべすべとした肌から茂みに触れた。さらに進むと柔らかい崖に到達した。

切り立った崖の岩肌は柔らく、弾力に富んでいた。そしてなにより温かかった。そして粘ついていた。
人肌の温かさを持ちながら、そこは体の表面を覆っている皮膚ではなかった。
指が触れた箇所はすでにひろみの粘膜に覆われた体内であった。
宗方の指が生暖かい肉の崖を這い回り、勢いよく奥へと降りていく。
指の腹がくぼみを見つけた。肉で出来た洞窟の入り口だった。
巣穴に蛇が入り込むように指先が突き入れられる。
「・・・アッ!アア〜ッ、ウアッ!ヒイイイッ!」
ひろみは悲痛な叫びをあげる。
宗方の指が蝶の幼虫のように、ひろみの体の中を動き回る。
なまあたたかく湿った肉の洞窟の壁は、宗方が指を動かすたびに弾んだ。
根元まで入り込んだ指を押し包みまとわりついた。
(まだまだ子どもだとばかり思っていたが・・・)
立派な大人だ、充分異性の体を受け入れられる。若い健康なひろみだ。
いちどセックスの快感を知ると、肉欲を制止することなどできないだろう。
(・・・俺以外の男と抱き合うことなど許さない!)
「岡っ!俺のすべてを受け入れろっ!岡」
宗方が指を肉の洞窟から引き抜いた。
引き抜きながら指の腹はひろみの体の前面にある、米粒状の突起物を弾く。
「きゃああああああんっ!はあっ!はあっ、はぁ・・・」
ひろみが甲高い悲鳴を上げてのけぞった。
着衣は乱れに乱れているが、両手を押さえつけられ宗方に体の自由を奪われてしまって
いては隠しようがない。宗方の体の下でなすすべもなく、不本意ながら体を横たえている。
宗方にはひろみがあまりにもはかなく思えた。しかし戸惑う気持ちなどみじんも沸き起こってこなかった。
(岡!お前がこんなにきれいだとは・・・)
宗方から顔を背け、息を弾ませ、涙に頬を濡らしたたひろみが、驚くほど母に似ていた。
(お前を手に入れられるなら・・・俺は鬼になる!鬼で構わん!)
宗方は片手で着物の裾をまくり上げる。急いでブリーフを太腿までずり降ろす。
着物を好むとはいえ下着まで褌(ふんどし)は身につけていなかった。
はち切れんばかりに膨らみ、出番を待ち望んでいた分身が猛り狂ったように顔を出した。


宗方は、異性に対し乱暴をはたらいたことなどまったくなかった。
辛い幼少期を過ごしたとはいえ、祖父母のもとで理性のある青年として成長した。
現役のテニス選手から引退せざるを得なくなった現在の病気を発症し、闘うよう
になってから性欲は失せていた。
(まさか・・・こんなに・・・!)
熱く血がたぎり、分身はラケットグリップのように大きくいきり立っている。
そして鋼のように硬い。宗方自身、驚いていた。
「岡!お前には女を越えてもらう・・・」
矛盾している・・!と腹の中で宗方は苦笑した。
(女にしようとしているのはこの俺だ!病気にどこかで怯えているこの俺が・・
この世からいつ消えてしまっても不思議のない俺が!岡を女にする・・!)
感情がたかぶる。興奮をとどまらせることなどできなかった。
「いやっ!・・・イヤアアッ!あぁっ、イヤアアーッ!」
宗方の両手が一瞬ひろみを自由にする。
だが成人男性のがっしりとした体が両脚にのし掛かっていては逃げることは
出来なかった。
宗方の両手がひろみのか細い腰の両脇を引き掴む。
下半身を守るホットパンツに指がかけられる。
「イヤッ!イヤアアアァァ・・・」
懸命にヒップを畳に押さえつけてひろみは抵抗した。
ズザッ・・・押し倒されたひろみの髪の毛、体と畳の擦れる音が何度も響いた。
ひろみは両手で宗方の手を掴み、払いのけようと必死だった。
宗方の胸に腕にと手の届くところ至る所に爪も立てた。
だが宗方の圧倒的な力の差に屈し、ひろみのホットパンツはショーツごとじりじりと
引き下ろされていく。
「イヤアアアアアアーッ!」
宗方は、いつしか何度叫ばれたのか分からない、ひろみの宗方を否定する
悲鳴に励まされていた。
(・・・俺だけが岡といる!岡が俺の下にいる!)
宗方の指に込められた力はさらに強くなった。

「ぐはあぁっ・・・よくある話だ・・ぐうぅっ」
大吾がグラスに注いだ酒を空にした。乱暴に口元をぬぐう。
「ぷはぁ・・・よくある話だ。師と弟子が男と女の関係になってしまったってのはな。
・・それでその一夜限りか?・・・いまはどうなんだ。まだ続いているのか?」
大吾のあけすけな問いに宗方は返事をしない。目を閉じたままだ。この男はいったん黙ると、こちらから話を持ちかけない限り黙ってしまう。
場をもてあましあぐらをかいた大吾が片膝をたてた。
「まさか昼間岡が訪ねてきたのは・・・密会だったのか?」
「・・馬鹿な!」
宗方の口元がほころぶ。
「とんでもないことをここまで話したんだ、もったいぶらずに続きを聞かせろ」
赤裸々な艶話にも関わらず大吾の表情は真剣だった。
「・・・岡に抵抗されても俺はくじけなかった、いや!むしろ興奮した!俺を
うけいれようとしない岡を、ねじふせて!押さえつけて!」
堰を切って流れ出た水のように、宗方は早口で語り始める。


「いや・・いっ、いやああっ!あーっあぁぁ!」
ついにひろみの下半身が剥き出しになる。
布の砦は太腿まで引きずり降ろされ、そこにとどまっていた。宗方は体勢を立て直す。泣き叫ぶひろみの両腕を左右に開かせてと畳の上に押さえつけた。
ひろみはTの字に組み伏せられてしまった。
宗方の眼下に、宗方によって半裸にされたひろみがいる。
開かされたシャツの下からのぞくひろみの肌が宗方の痴情をあおった。
不格好にずり上がったブラジャーから、ふたつの白いふくらみがのぞく。
その白いふくらみがいまだ抵抗を続けることでで上下に揺れる。ピンク色でつんと立ち上がった先端もまた激しく動く。
「・・俺は・・お前を絶対にはなさない!」
宗方が上半身を起こした。はなした片腕がひろみの股を押し開く。
「いやあああああああっ!」
ひろみは足に力を込めて抵抗するが無駄だったとどまっていたパンツの布地が固く、
邪魔をした。宗方を拒んでいるかのような狭い開脚となってしまった。
伸縮に富んだショーツのほうはあらんかぎりに左右に引き延ばされている。

無理矢理こじ開けたひろみの股間に宗方がのしかかる。
狭い隙間に大きな宗方の体が沈んでいく。
「あーっ!いやあああーっ!」
ひろみは半狂乱の状態になって暴れ泣き叫んだ。喉から声を絞り出し絶叫する。
はなされた片腕は宗方の体のあちこちを叩く。
押し開かれた片膝も力を込めなおも足を閉じようと抵抗している。
のしかかってき宗方の体側を足で挟みこみ懸命に叩いた。
自由のきく体の箇所を精一杯に駆使して反抗する。
「いやあああ!だっ、誰かあ!たったすけ・・・ええっ・・・ふぐうっ!・・・むうっ!ううんっ!」
宗方がひろみの口に、片腕をくわえさせた。ひろみの硬い歯が着物越しに腕に当たる。
。着物の袖がひろみの唾で湿ってくる。
ひろみは塞がれた口を解放しようと必死で首を振る。
「静かにしろ・・・岡!お前は男を待たせる女になれ!・・・だがいまは俺を待たせるな!」
鋭い一喝にひろみが一瞬押し黙り全身を硬直させる。
(・・ムチャクチャだ、はやくやらせろと岡を脅している・・・だがもうどうにもならん)
「・・ひふぁ!ふぁふぁ」
ひろみは首を左右に振った。
恋に胸を熱く焦がした瞳はそこになかった。
涙をあふれさせ、恐怖に怯えた瞳だった。
宗方が腰を浮かす。
ひろみの足を押し開いた自らの手で、こんどは硬く勃起した己自身を支えた。
テニスラケットのグリップの先は竹刀のようだった。
陰唇に亀頭が触れる。閉じていた肉ビラが無理にその先端で押し開かれる。
そこはそれまでの強引な愛撫で、幾分湿り気を帯びていた。


硬い竹刀は柔らかい肉のトンネルの入り口にズブリと突き立てられた。
ぬめりの少ない肉の壁は抵抗があった。
入りにくい・・それでも宗方は反動を付けて、ひろみに体を押しつける。
「ンググウッ・・!!」
ふさがれたひろみの口が声にならない悲鳴を上げた。
宗方のいきり立ったイチモツは、ひろみの体の中に呑みこまれていく。
(入れようと思えばできるものだ・・・)
ひろみが首を振り、口を塞ぐ宗方の腕に歯を立てる。布越しに噛まれても平気だった。
ひろみの顔が歪んでいた。・・・醜い!宗方の背筋に冷たいものが走る。
なま暖かく柔らかいひろみの肉の壁を擦る快感とは別に、己の男への嫌悪を感じた。
(母もあの男にこんな顔をして見せたのか・・・)
己を含んだひろみの顔は、悲痛そのものだった。
「・・・グウウッウッウッ・・・ウウッ」
目には大粒の涙があふれうなりながら首を横に振っている。
(しかし・・・どうだ!)
宗方は己が快感を得ることに没頭していた。
久しぶりに女の体に包まれて、宗方はひとり悦に浸っていた。
ひろみの体の奥まで突き入れた分身を、ゆっくりと反復させる。
「フグウッ・・・ウッ・・・ウウッ」
腰を揺すり何度も突く。
陰茎を出し入れすると、その反動でつながっているひろみが揺れた。
着物越しに突き立てられた歯の力が弱まっていく。
「ふんっ・・よしっ・・そうだ岡!そうだ・・・素直に反応しろっ!ふんっ」
重なったふたつの体が淫らに動く。
ひろみの背中で畳が何度も擦られた。

前戯は申し訳程度の愛撫だけのため、ひろみのそこは充分に潤ってはいなかった。
それでも体は刺激に反応してきている。
異物を拒み、はじきとばさんとばかり粘液が徐々にしみ出していた。
無駄な抵抗だった。
強引に突き入れられた宗方のそれは、ひろみの中で絶えず暴れる。
凶悪なラケットグリップが何度も突き刺さり反復運動を繰り返す。
硬い肉のグリップがひろみの体の中を貫き、ぐちゃぐちゃにかきまわす。
「・・・ぐぶうっ!ううっ!ぐううう・・・」
衝撃にひろみは顔を歪ませ、何度もうめき声を上げる。
宗方の着物をしとどに濡らせたひろみの唾液はすっかり冷え切っていた。
「岡っ!俺は鬼だ・・・ふんっ!」
(男は皆、こうして女の中に突き入りたい・・・愛する相手ならなおさら)
いっしゅん憎いあの男の顔が頭をよぎった。
宗方が愛して止まない死んだ母ではなく、自分たちを捨て、蘭子の母の
もとへはしった父の顔だった。
(・・・俺も鬼ならあいつも鬼だ・・・)
乾き気味の肉の内壁を擦っていても、宗方一人快感が急速に高まっていく。
軟らかい肉の壁は、ひろみの意志に反し、宗方の分身を押し包みつきまとう。
「ふんっ!・・・うおおおおお!」
宗方が激しく腰を揺すった。背中から汗が噴き出す。
ここまで汗をかいたのはテニスコートにでることのない宗方にとって、ひさしぶり
のことだった。
「ううううううううううううーっ!」
いまだ口を塞がれたひろみのうめきが大きくなる。
ひろみの体の揺れが小刻みになり激しく揺れた。

宗方の股間でなにかが爆発したようなズシリッと衝撃が沸き起こる。
熱い血が凄まじいスピードでひろがっていく。
「・・・おおっ!」
宗方は中空に向かって咆吼し、ひろみから勢いよく腰を引いた。
引き抜いた分身の液体から止めどもなく白濁した液体が、弧を描き宙を
駆けていく。
宗方はまだひろみの口をまだ塞いでいた。
組み敷いたままのひろみはもちろんのこと己の着物の袖に、
あちこちに精液が降りかかった。
「・・・おまえのためだ、中には出さん」
強姦しておきながらしらじらしいと宗方自身もなかば呆れていた。
返事は期待していない。
ひろみの口を塞いだ手に力がこもる。
精が放たれていくのに呼応して屹立していた分身が硬度を下げていく。
ひくひくと睾丸が収縮していくのが己にも分かる。
達した後の満足感と、すぐに沸き起こる喪失感を久しぶりに味わいながら
宗方は自らにも言い聞かせるようにつぶやいた。
「いいか岡!男はお前に求めるのはこれしかない!お前の体を奪うことしか
考えてはいない!いまは誘惑に負けるな!その誘いを断れ!」
説得力がないと自分自身納得しながらそれでも早口でまくし立てる。
見下ろしたひろみは虚ろな瞳をしていた。
真上にいる宗方を瞳に移しながら焦点が定まっていなかった。
こらえきれなくなった宗方は視線をふと下に落とした。
「・・・岡っ・・・おまえは・・・」


宗方は動転した。声が裏返っている。
個人差はあることは承知している。
激しい運動やタンポンを使用することで、処女膜が破られることもあると理解している。
意外だった。宗方は信じられなかった。
(・・・岡が!まさか!男性経験がすでに・・・ある・・・)
「まっまさか・・そんな馬鹿なっ!」
宗方はひとり声を震わせて絶叫した。
ひろみは宗方から顔を背けて、涙をこぼした。
頬を何度も伝い落ちた涙の筋は乾く間もない。
宗方は目をこらして破瓜のしるしを必死で探す。
精液の匂いが鼻を突くひろみの内股を、目的を果たし、勢いを失った己の欲望の化身を
見落としてはいないかと懸命に探す。
・・・白濁した精液ばかりで深紅の血はどこにも見受けられない。
衝撃だった。
宗方自身予期していなかったことで衝撃を受けた。
その衝撃とともに怒りがこみあげる。
「・・・どういうことだっ!岡っ!」
ひろみの口を塞いでいた腕が、今度は肩を掴み、激しく揺さぶっていた。
「・・きゃあっ!イタッ・・・ううっ!」
ひろみはうめき声と悲鳴をあげるだけで返事をしない。
「誰だっ・・相手は誰だ!いつだったんだ!岡あああっ!」
宗方の詰問が続く。


「なんだ、そんなことで動揺したのか。お前・・・男女共学だし
十代の性交経験なんて俺たちが学生の頃でもじゅうぶんあり得る話だろうに・・ういっ」
酔いがまわり、舌のまわりもよくなった生臭坊主の放言は続く。
「ティーンエージャーの妊娠なんてのも流行らないぞ。若い連中は避妊の知識だって持ってる。なにを
そんなに気にすることがある。それともお前処女崇拝者か?」
大吾の言葉に宗方ふふんと口先だけで笑った。
「マザーコンプレックスとオイディプスコンプレックスだけだと思っていたが」
大吾の発言は仏門に入信した者の僧侶の言葉とは信じられない。
「・・でそれからどうした・・・夜通しで岡を犯したのか」
剃髪した生臭坊主の吐く息は酒臭い。
宗方が黙っている間、酒の匂いを周りに漂わせてしゃべる。
・・・だが大吾の目は真剣だった。
「・・俺は怒り狂っていたな。岡がしゃべるひまもないほどしばらくまくし
たてた。・・そうしたら今度は邪魔が入った」
「邪魔だと?」
「ああ、呼んでいたのをすっかり忘れていた・・・ドアをノックされてようやく
思い出した」

「コーチ、いらっしゃいますか」
「・・・待てっ!まだ入るな!・・・そっそこでしばらく待っていろっ!」
宗方の絶叫に藤堂と尾崎が不審そうに顔を見合わせる。

男子テニス部キャプテン尾崎勇は、不安だった。
合宿自体は男女とも順調に進行しているとひそかに自負している。
勝手に取材で同行してきた新聞部部長の千葉鷹志という部外者もいるが、それほど面倒なことは
起きていない『様子』だ・・・。
だが昼間の宗方コーチとひろみの練習風景を千葉から聞いて気にはなっていた。
(あのコーチが突然岡くんをおいてコートから出て行ったんですよ。信じられませんねえ)
密着取材とやらで岡ひろみしか観察していないこの男、千葉ちゃんは見たありのままのことしか
話さない。
ミーティングでは何も話さなかったコーチが、藤堂貴之をひとり呼び出した。
(呼ばれたのは俺だ)
(キャプテンの俺は知っておいた方がいいと思う)
ダブルスのペアを組み、生徒会長でそして親友でもあるこの藤堂、この男も
岡ひろみが千葉同様特別な存在であることは感じている。
ひとり部屋を出た藤堂が心配でついてきてしまった。
(・・遅いな)
さすがに言葉には出せないが、ふたりはずいぶんと待たされた。
どうやら宗方コーチには先客があるらしい。
(誰かと口論している・・・?)
聞き取れないが扉越しにわずかに漏れる宗方の厳しい命令口調。
そして・・なにやらすすり泣きのような女性の?・・・声?
ようやく中から声がかかった。
「・・・待たせてすまんな。あいているぞ、入れ・・・」
気のせいか宗方の声の調子が荒い。
「はい、失礼します。コーチ・・」


ドアを開けるなり、ふたりは絶句した。
「!あっ・・」
それ以上の言葉が出ない。その場に立ちつくしている。
「・・なんだキャプテン、お前も来たのか・・・はやく扉を閉めろ。はやくせんか!」
「は・・はいっ!」
息を弾ませた宗方の一喝に、尾崎が弾かれたように体を反転させる。
「鍵をかけろ!かけろ!」
かちりと不気味に施錠の音が響く。
「ようし!そこの壁にスイッチがある。もっと明るくしろ!はやく!」
尾崎は宗方の指示にちゅうちょしながらすべて従った。
部屋が明るくなる。
「コ、コーチ、いったい・・・なにを・・・」
立ちつくしていたままの藤堂がようやくそれだけ口にした。
「はっは・・見ての通りだ」
宗方は静かに笑った。
宗方は入り口に立つ二人に向かい合ってあぐらをかいて座っていた。
しかし二人を迎え入れて姿を見せる状態ではなかった。
宗方は着物をすべて脱ぎ捨てて裸になっていた。
それだけではなかった。
裸の岡ひろみを後ろから抱きかかえて座っていた。
ひろみは宗方の前面に足をひらいて跨っている。
「いっ、いやああぁっ・・あぁん、はああ・・」
照明が明るくなり…二人を確認したひろみが首を振る。
しかしその声は弱々しかった。
泣いているのか、興奮して悶えているのか判断がつきかねた。


「はっはあ、俺ももう若くはない。すぐにはじめたくともそこまで元気がない
・・・あははは」
宗方の発言は、すでに情交が交わされたことをふたりに告げる。
栗の花に似た香りが部屋にたちこめていた。
藤堂と尾崎のふたりはまったく動けない。
「・・・くっ・・・あはあっ・・」
言葉にならない悲鳴が絶えず漏れている。
テニス部の顧問が女子部員を弄んでいるのだ。
あの宗方仁がいままで周囲が驚くほどに執着し、手塩にかけて育てている
岡ひろみに淫らな行為をくわえている!!
非行とも関係のないまっとうな学生生活を送っている二人にはたとえようのない衝撃だった。
「やあッ、ああっ・・ああん・・」
宗方の上でひろみがゆらゆらと揺れていた。
宗方の片手はひろみの乳房を絶えずなぶる。
撫で回したかと思うと引き掴む。
ふくらみの先端をつまみ上げては押し込む。
残された片手は、股間にのばされていた。
両脚を左右に開かされたひろみの股間は眼前にさらされている。
薄紅色の肉の裂け目が、宗方の指でこじ開けられていた。
肉のひだの合わせ目が押し広げられ入り口が左右に開かされていた。
さらに入り口から中へ入り込んでいる指もある。
肉ひだをこすりあげ、米粒ほどの肉芽をはじくとひろみがびくりとのけぞった。
「はあんっ!はぁぁぁ・・・」
「やめてください!コーチ・・!」
藤堂が叫んだ。
宗方はその叫びを無視し静かに切り出した。
「誰だ・・・」
鋭い視線を送り、ふたりをにらみつける。
「岡を女にしたのは・・・いったい誰だ・・・?」


宗方の激しい怒りに満ちた声が、立ちつくしたふたりを威嚇する。
ふたりは動きたくとも動くことができなかった。
・・・ふたりは勃起していた。
「はっはっはっ、はははぁ・・」
ふたりの身につけたズボンの股間が膨張していることに気づき宗方は笑った。
「若いな、お前たち・・うらやましいぞ。ふっふ・・」
いまこのときを病魔に侵され闘っている宗方の本心だった。
自分が取り戻せない健康な体をふたりが持っている。心底うらやんでいた。
この場に自分の病状を知るものは、ひとりとしていない。
病気を告げるつもりもない宗方は目を閉じる。
「・・・!お前たちが若いことはよく分かっている。テニスで輝く未来を
手に入れることが出来る可能性を持ったお前たちだ。・・そして岡もそうだ」
岡と口にした途端、宗方が目を見開いた。
「岡は、自分のテニスを見つけたいと本気で思っている・・・この俺の手を取って
特訓にのぞんでいる・・テニスを極めるためにこの俺をえらんだのだ!」
「!ああっ・・!」
なぶる手に力がこもりすぎたのかひろみがうめいた。
「いまの岡は恋に身を焦がしている時間はない・・快楽に酔うときではない!
テニスに全身全霊を傾けていなければならんのだ!・・そんなときではないのだ!その岡を!」
絞り出すようにうめく宗方の言葉には怒りとともに深い悲しみがあった。
(・・・俺にはもう・・時間がない・・・)
宗方は命の刻限を誰にも告げられぬことが辛かった。
選手生命を失い引退を余儀なくされた病気を憎んだ。
「誰だ・・」
悲痛な叫びだった。

「・・・僕です。宗方さん」
涼やかな声が響く。
「・・・藤堂!」
尾崎の制止を振り切り藤堂はさらに話し続ける。
(藤堂、やっぱりお前か!・・)
宗方と藤堂の視線がぶつかりあう。
「・・合宿初日の自由時間に、岡君と一年生の英(はなぶさ)君が川に落ちて
それで・・それで僕と尾崎が服を貸して・・もどるわけにもいかずその・・」
宗方が再び目を閉じた。
「・・ふたりとも合意の上か」
「はい。・・いえ、こちらが強引でした」
緊張した空気がはりつめる。その空気を突然ひろみが打ち破った。
「ちっちがいますうっ!あたしもっ!あたしも望んでいましたあっ!」
「岡君!」
ひろみが泣きじゃくりながら宗方の腹に背中をこすりつける。
「と、藤堂さんは悪くありません!あたしが浮わついているだけでけなんです!うわあぁ・・」
暴れるひろみが宗方の膝の上で突然重くなった。
(岡!お前とは師弟としての関係しか許されないのか!)
宗方は虚しかった。ひろみは藤堂をかばっている。合意であろうと無かろうとひろみは宗方の前では藤堂をかばい続けるだろう。
これではっきりした。体を奪っても、どんなにひろみを愛していても、ひろみは自分の存在を
テニスのコーチとしてしかみていない。
(お前は身も心も俺のものだと思いたかった・・・岡!いちばん俺が愛し不幸だったあの人と同じ道にだけはたどらせたくない!テニスで
輝く未来を手に入れて欲しい!)
宗方に渦巻く激しい感情が絶望に呑みこまれていく。
「・・藤堂、すきか、岡が」
宗方自身驚くほど口調が穏やかになっていた。
「はい、すきです・・・」
間髪入れず返事がかえってくる。
「・・・そうか。それなら一気に燃え上がってすぐに醒める恋はするな!」
厳しい言葉だった。宗方の言葉に冷静さを感じ二人を見守っていた尾崎の顔がゆるむ。
「いいか、岡・・・今夜限りだぞ!今夜は好きにしろ!そのかわり明日からは
テニスに打ち込め!」

ひろみが振り返って上を見上げた。
「コーチ・・・」
宗方は理解していた。自分は愛する岡ひろみの体を手に入れたが、彼女に異性として心から愛されることは
のぞめないだろう。
(そのほうがいいかもしれん・・・この世からいつ消えてもおかしくない俺だ)
宗方は無言でひろみに頷いてみせる。
「・・なにをしている!藤堂!はやくあがれッ!」
脱兎のごとく藤堂が駆け上がってきた。ひろみが立ち上がる。
膝立ちになったふたりはすぐにも倒れ込まんばかりに抱き合った。
「・・お前たちは、気がつかないうちに無数の敵を倒してきた。負けたものたちのために
ベストを尽くせ!世界を見据えた強化選手のひとりとしていまはテニスに打ち込め!」
若い男女の熱い抱擁のそばで宗方の説教は続く。
「そのあとならいくらでもかまわん!だが今夜だけ・・・今夜だけだぞ!奥にベッドがある!
すきにしろッ!岡!明日からしごくぞ!」
「・・はいっ・・」
ひろみの元気な返事が、宗方の胸にこたえた。
ふたりは聞いていないかと思っていたら実に行動がはやかった。
藤堂はひろみを抱きかかえて奥のふすまを勢いよく開ける。
「・・閉めるなっ!」
宗方が一喝する。
「岡!はやく服を脱がせるのを手伝ってやらんか!」
「はっはいっ・・」
背中を向けたまま宗方が怒鳴り散らす。
「藤堂!お前たちの将来がかかっている・・わかっているな!中には出すな!」
「わかっています!」
「ようし!くれぐれも忘れるなよっ」
テニスの指導とも聞き違えそうな指示に尾崎は圧倒される。
この異常な展開を、尾崎は黙って見守っていた。ひとり入り口で立ちつくしている。
宗方が穏やかに声をかけた。
「・・キャプテン、お前にも話がある。まあ、あがれ・・」


「はっはい。コーチ・・」
宗方に促され尾崎はよろよろと敷居をまたぐ。
勢いよく勃ち上がった股間が邪魔で動きがぎこちない。
「足は崩して構わんぞ」
あぐらをかく許しが出てもさすがにしたがえず、両膝を畳にあて膝立ちになる。
・・そのほうが奥の部屋がよく見えた。
宗方の背中越しに奥をのぞき込んでしまう。
尾崎は宗方に気づかれたかとあわてて目をそらす。
ベッドの上の二人が繰り広げる痴態が気になって仕方がない。
「はあっ・・・ああんあぁん、あはぁん」
ひろみが甘えた声を漏らしていた。
ひろみの上に藤堂が重なっている。
ひろみの裸の胸に見慣れた藤堂の頭がはい回っていた。
(・・これは・・むちゃくちゃヤバイぞ・・)
自宅のテレビの前で、なまめかしいシーンになると、家族の会話が途切れ
気まずくなる。そんな雰囲気を尾崎は感じた。
気になって仕方がないが、見るのは自分が悪いことをしている気がする。
他人のセックスを生で目撃するのは、刺激が強すぎる。
「尾崎、さっきの話はほんとうか・・・」
「あッ、はい?」
「初日に岡と英が川に落ちたというのは・・」
「はい。ほんとうです。彼女たち全身びしょぬれで、ほうっといたら体が
冷えてしまうし、それで藤堂とふたり上着を脱ぎました。
彼女たちに僕たちの服でみんなのところに戻るわけにはいきません。
そっそれで・・」
宗方が尾崎の口をさえぎった。
「・・お前はどうしていた、尾崎」
「えっ!」
「お前はどうだったのかと聞いている!」

「あはあっ・・!ハアンッ、アアアッ」
会話が途切れると奥の部屋からひろみの喘ぎが聞こえてくる。
他人がそばにいるにもかかわらず、奥の二人は盛り上がっているようだ。
「岡君、すごいよ。ぬるぬるしてる・・」
藤堂の睦言を耳にして、宗方が己の眉間に深いしわを刻んだ。
(俺は・・最後まで抵抗していたな、岡!)
「・・コーチ、これを」
尾崎が宗方の着物を見つけ、畳の上を滑らせた。
「ああ」
素っ裸の宗方がばさりと着物を羽織る。
(コーチって背が高いのにずいぶんやせているんだな、それに皮膚が青白い)
尾崎は長身に似合わぬひ弱な宗方の体格を不審には思った。
(たばこが悪いんじゃないか・・・)
体裁を整えると、宗方はたばこをくわえる。
「・・悪いが一服するぞ」
尾崎は宗方の病気に気づくほどの人生経験を持ち合わせてはいなかった。
身繕いをすませた宗方が、尾崎との話題を蒸し返す。
「・・さて質問に答えろ、尾崎。ずっと四人一緒にいたわけではあるまい」
「・・・ハアアアッ・・・」
ひろみの甲高い声が上がった。
尾崎は目を奪われる。
ひろみの片足を藤堂が押し広げている。ふたりの下半身がかさなっている。
本番を生で目撃したのだ。
食い入るように見つめながら、ふと向かいの宗方を見やった。
タバコを持つ手がぶるぶると震えている。いや全身を震わせていた。
寂しげな表情を浮かべた宗方に、尾崎は自分と同じ思いを見た。

(この人は悲しいんだろうか、それとも悔しいんだろうか・・)
宗方の目は、疲れきっていた。憂いを帯びていた。
(教え子を奪われたあきらめ・・?嫉妬・・?)
「アアァッ!ウウンッ、ハアアアッ!」
宗方の表情など知るよしもなく、ひろみの悲鳴は激しさを増してくる。
ふたりがはげしく揺れている。
宗方の心情をたずねることなく、尾崎が口を開いた。
「コーチ、僕はですね、その・・・英君と・・」
宗方は黙っていた。
「英君といっしょにいました・・英君は岡君といっしょにいたかったみたいですが」
まだ宗方は黙っていた。
「なんとなくあのふたりを・・ふたりだけにしてやりたくて。まさかそんなことになるとは
・・まったく気がつきませんでした」
「・・なぜ気がつかなかった、尾崎」
「えっ!」
「気がつかないほどお前も取り込んでいたんだろう!」
宗方の容赦のない問いだった。
ボールを捕らえるラケット面のブレを見逃さない鋭い状況判断があった。
(・・やっぱり・・この人には勝てない・・・)
尾崎は観念した。


「・・僕は、英君にイタズラをしていました・・」
尾崎自身、驚くほど自然に話すことができて、驚いていた。
というより胸のつかえが下りて安心したのが本音だった。
「彼女は、異性に対して素直になれないというか、潔癖なんでしょうね。かんかんに
怒って僕の手をはたきました。『さわらないで!不潔です!』って。それでも
キスはしました。それに・・あちこちさわらせてくれました。イヤだ、やめて、助けて岡先輩とかとにかく騒いで、
でも本当にいやなら逃げたでしょう。声だけで抵抗されたという印象です」
(・・あの方ならどんな反応をするだろう)
尾崎の頭の中は竜崎麗香のことでいっぱいだ。
女子部員が優雅なテニススタイルと上品な出で立ちから『お蝶夫人二世』と呼ばれる
英はただ似ているだけだった。おなじ女性というだけだった。
尾崎自身はっきりとわかっている。
竜崎麗香にかわる女性などいない。興味本位で体に触れることなどできない。
尾崎は宗方に竜崎麗香への想いを告げるつもりはなかった。
「彼女は誰にもまだ、話してはいないようですが、もしもの時は・・覚悟しています」
(俺が辞めるだけじゃすまないだろう、宗方コーチも監督不行届で・・)
尾崎は罪悪感にかられていた。
「アッアッアッアッアッアアアンッ!」
深刻さを増していく尾崎の告白に構わず、奥の部屋でひろみは喘ぐ。
「キャプテン、明日のことなんだが・・・」
宗方がようやく口を開いた。


「・・・責任はすべてコーチの俺にある。明日の夜英をここに呼べ。それから・・」
「あはっ・・あはあああっ!ああんっ!」
「ぅうっっ・・・つあぁ、あぶない、あぶない」
奥で淫らな行為にふけるふたりの発する声が、宗方の言葉を遮った。
ブチャッ・・・
水が岩にでも当たってはじけるような勢いの良い音が尾崎の耳にまで届いた。
宗方の眉がぴくりと動く。
藤堂は達してはいなかった。自らひろみの中から己を引き抜いていた。
藤堂のたちあがった分身が尾崎にも見える。
「・・今夜限りだ、そう簡単にはイカないよ。岡君・・さあ後ろ向きになって」
背中で響く藤堂の言葉に宗方の眼光が和らいでいた。
(コーチは・・安心したのか・・ふたりは納得していると・・)
尾崎は宗方の表情から、彼の心情を想像する。
そしてなおかつ奥の部屋を注視する。
「・・あああっ!あああんっあああん!」
よつんばいになったひろみに藤堂がのりかかっていく。
赤黒い肉棒が突き出したひろみのヒップにずんずんとめり込んでいった。
(畜生!あいつ皮がムケていやがる・・俺より先に筆おろしか!)
童貞を誰にいつ捧げるか、どちらが先か、競争する気はさらさらないが、尾崎は
本心からうらやましいと思った。
(両想いでセックスできるなんて最高じゃないか・・・俺は、絶望しながら
あのひとを・・見ているだけだ)
「・・キャプテン!」
「ああ、はいっ」
宗方が心そこにあらずといった様子の尾崎を呼んだ。
「いいか、明日のことだが・・・」


「・・ずいぶんと思い切ったもんだな。宗方」
「ああ、でもあれでよかったと思う・・次の日から岡はもちろんのこと、藤堂も
尾崎もみんな見違えた。あれでふっきれて岡も特訓に集中した。気絶までしてな
・・部外者が文句を言ってきたが藤堂が止めた。あれでよかったと思う・・・」
宗方は盃に口を付けた。
「しかし岡も・・藤堂もよく我慢しているな」
「ああ、ふたりともよくこらえている。それでも岡の涙をなんど見たことか・・・!」
大吾はそれ以上なにもこたえなかった。
宗方の岡を見守ることに徹した愛に胸が震えた。
慰めの言葉をかけるより、大吾の口は酒で満たすことをえらんだ。
「ところでお前、尾崎はどうした・・英のことは・・・」
大吾は話の続きをさりげなくせかす。
雪の降り積もった寒空の空気が部屋に入り込み満ちているにもかかわらず、宗方と
桂の会話は静かで、そして熱い。
「人間とはおそろしい。肉体はすでに弱り切っていたというのに・・・岡を、
岡の体を力ずくで奪ったことができただけでも奇跡だと思っていた!」
突然口を開いた宗方の口調がまたはやくなる。
「しんじられるか、大吾・・愛していなくても女は抱けるものなのだ!そして
俺以外の部員は愛する女性を抱いた!思いを遂げた!」
語り続ける宗方の勢いに任せ、大吾は聞き役に徹する。
グラスに注ぐたび一升瓶の酒が、たぷんっと音を立て揺れた。
「俺は尾崎に頼んだ。翌日一年生を買い物に出させた。薬局へな」
「・・コンドームか・・」
「ああ。合宿の期間、自由時間で、お互い合意の上で、避妊具使用のセックスなら
認めてやった!俺自身英も抱いた!女子部キャプテンの滝も・・そして・・」
宗方がいっしゅん言いよどんだ。
「竜崎も・・・」


「宗方コーチはどう思われますか。あたくしには今回の合宿の雰囲気は奇妙に感じられます」
「・・奇妙だと?」
「はい。お気づきになられませんか?コーチ。なんと申し上げてよろしいのか・・そう、部員が皆ギラギラしています」
宗方の部屋を訪れているのは西高テニス部の誇る「お蝶夫人」こと竜崎麗香だ。
宗方が呼んだわけではない。麗香自らが訪ねてきた。
宗方は喜んでいた。口には出さぬが、この合宿の間どうしても呼びたいと思っていた。
竜崎麗香とはふたりきりになりたいと思っていた。
麗香の優雅で完成されたテニスのプレースタイルに心を奪われはした。しかし宗方は岡ひろみの将来への可能性を信じることにした。
その結果宗方は麗香を選ばなかった。己の残された人生のすべてを、心血を注ぐ教え子に彼女を選ばなかった。
(高校生でこの体、容姿とも美しい・・)
いまの麗香はロングスカートで長い足を隠してしまっている。宗方の目に肌の露出を控えた私服姿と昼間のスコート姿が重なった。
まだ幼さを残すひろみや、はんぶん血の繋がった妹の蘭子とは違い、女性としての魅力を感じる。
「ギラギラ・・若い者の生命力が満ちあふれているんだろう」
「ちがいます!なにかこう・・本能が剥き出しと申しましょうか、あたくしはおそろしいのです!」
「皆テニスに真剣なのだ」
「ちがいますっ!練習でも食事でもお風呂はもちろんのこと、一年生も二年生も!三年生ですら
あの滝キャプテンですら様子がおかしいのです」
「・・お前の気のせいだ」
「ちがいますッ!」
冷静な宗方の返答にすら麗香は苛立っているのか語気が強くなった。
「あたくしは見てしまいました!夜散歩に出かけて、そうしましたら・・・」
(なんだ現場を目撃しているのか)
宗方は笑った。
「なにが可笑しいのですか!コーチ!西高のテニス合宿で部員どうしが
ハレンチな振る舞いを・・あああっ!」
突然宗方が立ち上がり、麗香を懐にぐいと抱き寄せた。
「コーチ!なっ、なにをなさいますっ!はなしてください!」
宗方の腕の中で麗香があばれる。うろたえて声が裏返る。
「・・もうそのくらいにしておけ、竜崎!」

「あああっ!コッ・・コーチ!なっ・・・んんんんっ・・むうっ!」
宗方の胸から飛び退こうと、麗香がもがいた。頭を振る。
自慢の豪華な金髪は、バッサバッサと音を立てあらん限りに揺さぶられる。
そのさまはまさに蝶が羽場たいてみせているようだった。
「・・つうっ・・」
宗方に両手首を掴まれ、麗香はその強力に顔を歪ませる。
「・・くッ!なにをなさいますッ・・」
麗香は顔を見上げ、宗方をにらみつけた。
テニスの対戦相手にむけられる挑戦的な視線がそこにあった。
(美しい・・・!)
自分の前ですらいつも泣いていた記憶しかとどめていない弱い母の美しさとは別物だった。
怯え混乱しているのであろうが、それでもなお立ち向かおうとする強さ!
宗方は麗香の気丈さに感嘆していた。
「・・なにをみたというのだ、竜崎!こうしていたのか!」
「あっ・・うううっ!」
蝶の大きな羽根の動きが休められる。
宗方は力ずくで麗香と唇を重ねた。
麗香は顔を振り、逃げようとするが力ではかなわなかった。
しばらくして無理矢理に塞がれた唇が解放される。
荒く息を弾ませた麗香の声は怒りに満ちていた。
「なっなんてことを・・きゃっ・・きゃああああっ!」
麗香の取り乱した悲鳴を、宗方は初めて耳にした。
畳の上に仰向けに押し倒された蝶がもがいている。
宗方の下に、組み敷かれ蝶がばたばたとうごめいていた。
「お前が見たのは・・・接吻ではなく・・・からみあっていたのか!竜崎!」

ふたりの格闘は長くは続かなかった。
完全な優勢の立場となった宗方は、麗香の両腕を押さえつけ馬乗りになる。
「なっ・・なんて下品なっ・・はなしてくださいっ!宗方コーチ!・・かっ、
かりにも指導者の立場である、あ、あなたが・・そのような下品な発言をおおおッ!」
掴まれた腕の痛みに顔をしかめ、それでも麗香はあらんかぎりの力で抵抗した。
畳の上一面にに金髪をひろげ、かき乱した姿は蝶の標本のようだった。
麗香は息をはずませる。ブラウスの胸の頂が波打つ。
テニスのラリーを続けると浮かぶ汗が額に滲んでいた。見下ろす宗方と視線をあわせた。
「・・はなしてください!あたくしはテニス部の合宿に参加しているのですっ!
こ、このようなことをするためではありませんわ・・」
押し倒され、宗方にのしかかられてもなお、麗香は毅然とした態度を見せぴしゃりと言い放った。
(美しく、そして強い・・やはりお蝶は誰よりも手強いな!)
反抗されればさらに宗方の痴情がさらにあおられる。欲望の炎が燃え上がる。
(愛情で心を通じ合えなくとも良い!この体だけは俺がこの世から消えていなくなる前に
手に入れたい!)
股間に衝動が走りずしりと重たくなった。
(そうだ・・まだ俺は・・生きている!)
「ふっふ・・・さすがだ。竜崎、お前が一番しぶとい・・」
不敵な宗方の発言に、麗香は衝撃を受けた。
「なんですって・・!そっ、それは・・!」
言葉が続かなくなった麗香を見下ろし、宗方は自慢げに話す。
「・・ああ、岡は泣き叫んだ。英も号泣した。罵声がなにをいっているのか聞き取れなかった
・・・そのてんキャプテンはまんざらでもなかったようだ・・」
「いやっ!やめてっ!およしになって!」
麗香は激しく頭を振った。閉じられた瞳が見開かれる。真珠のような大粒の涙があふれていた。
「あっあなたは・・あたくしが・・あなたは、このあたくしがああああっ!」

「!なんだ・・と・・?」
宗方は麗香の発言に、腕の力を弱めた。
「りゅう、ざき・・竜崎!お前が・・俺を・・どうだと・・?」
「ああっ・・・」
失言をしたとばかり、麗香はうめいた。
宗方からあわてて視線をそらせる。
巻き毛が乱れに乱れてはいるが、ぷいとそむけた横顔もまた肌が白く美しい。
「・・あたくしが素敵だと思っている男性は・・お父様だけでしたわ・・あたくしに
テニスを教えてくださった素敵なお父様・・」
しばしの沈黙が破られたあとの麗香の言葉を理解できず、宗方は黙っていた。
「あたくしだって・・あたくしだって!男の方に興味がないわけではありませんの!
輝く太陽のように、あたたかい方や・・荒波のうねる海のように厳しい方・・」
(ごく普通にお前も恋をしているのだな竜崎!)
「でも・・みなさま、誰も・・・あたくしのことを見てはくださらない!ひろみばかり!」
麗香がひろみの名を口にしたとき、宗方はすべてを悟った。
(まさか・・そうか?そうなのか?)
「コーチ!あなたはなぜっあたくしをえらんではくださらなかったのですっ!
あたくしがお慕いする方は、あたくしではなく・・なぜひろみをっ!」
テニスの師弟関係のこととはとても思えない。
(お蝶、お前が・・この俺を・・・?)
麗香のあまりにも唐突で、そして激しい告白に、宗方は驚くしかない。


『コーチは着任されたばかりで、まだよくわかっていらっしゃらないようですわね
・・選手は岡さんではなく音羽さんの間違いではありませんこと?』
岡ひろみの選手抜擢に異を唱える麗香。
宗方が『変更はしない』と告げると、信じられないとばかりに鋭い視線を浴びせた。

岡ひろみとのペアを発表したときも、瞳は怒りに満ちていた。
『がんばりますわ・・・あたくしは!』
宗方の決定に納得していない、麗香は宗方への敵意をあらわにしていた。

『やめてくださいっ!このようなところで!コーチ!』
練習中負傷した麗香をかいほうした。
テニスウェアを破ってと傷口を確認した。・・他意はまったくなかった。
ビシッ!
宗方の頬に麗香の平手が飛ぶ。麗香は顔を真っ赤にしてにらみつけている。
『・・お蝶らしくないな』

加賀高の緑川蘭子との決勝戦の後もそうだった。
負傷して棄権した蘭子は宗方にすがりついた。
悔しさをあらわにして蘭子は泣き叫ぶ。
『あたくしでなく・・他の高校の生徒さんや岡さんには優しいのですわね』

対立している選手としか思っていなかった。
自分の指導の仕方が理解できないでいると思っていた。
(・・お前はそうやって俺をにらみつけていたな、お蝶)
説明すればよかったのだ。なぜ自分が急いでいるかを。
いつ尽きるかも知れないこの命を思うと、あせらずにはいられなかった。
(この世から消える前に・・倒れる直前まで純粋な気持ちでプレーを
しなかったテニスでなにかを残したい・・)
複雑な事情を持つ蘭子との関係も話せば良かったのだ。
「お蝶、俺はお前がうらやましい・・」

「えっ・・」
きわどい体勢をとらされたままの麗香が、宗方を仰ぎ見る。
「どんなこともはっきり口に出せるお前がうらやましい・・」
宗方は生前、親友の太田や大吾、将来ひろみの伴侶になるでろう藤堂にひろみへの
想いを告げた。
ところが当のひろみにたいしては、ひとことも愛を告げることはなかった。
家庭環境に苦悩し、死の恐怖に怯えながらも宗方が最後まで生き抜けたのは
岡ひろみへの想いがあったにもかかわらず。
消えゆく運命にある、死期の近い己は愛を告白しないことを選んだ。
それは宗方にとって苦渋に満ちた決断だった。
(・・病気さえしていなければ!)
未来があることになんの不安のない健康な麗香がうらやましかった。
(お前の健康とそして・・めぐまれた家庭がうらやましい!)
「父君を尊敬しているお前がうらやましい・・俺はあの人を、実の父親を憎んでいる」
馬乗りになったままで、宗方の顔が麗香の顔面にまで近付く。
「俺は母とともに・・あの人に捨てられた・・・」
麗香がはっとする。
怒りと恐怖にまかせ、宗方への思慕を思わず口走った麗香だ。混乱しているのは間違いなかった。
それでもいまは反抗の意志を見せず宗方の言葉に耳を澄ましている。
「・・なにも疑わずに父君を愛することができるお前がうらやましいよ・・・」
「コーチ・・」
「・・いままで話したことはなかったが、俺は緑川蘭子と異母きょうだいだ・・憎んで
あまりある、あの男が築いた・・もうひとつの・・いや唯一の幸せな家庭だな」
ふたりの荒い息遣いがおさまってくる。

「そうでしたの、緑川さんが妹・・」
「だが蘭子はかわいい!あの男が不幸にした俺と母のことで、蘭子に引け目を
感じさせてはいけないと・・そう思っている!身長のことでコンプレックスを持っていた
蘭子が、テニスを知って、俺が教えたテニスで生き生きとしてくるのが俺はうれしかった!」
「そうでしたの・・」
「・・だが俺は岡をえらんだ!」
麗香の顔がさっと引き締まる。
「お蘭でもなく、お蝶!お前でもなく岡をえらんだ!だがっ!お前の・・」
「・・あたくしの・・なんですの?コーチ!」
ちゅうちょする宗方を、麗香が促す。
宗方は麗香をまじまじと見つめた。
美しいだけでなく、いつ体を奪われても不思議でないこの状況で、プライドを
まだ失ってはいなかった。
「いったい、あたくしのなんですのっ?」
宗方はゾクゾクした。
(体だけでも手に入れたいと思っていた!)
赤いつややかな唇から、可憐な声がこぼれるさまにぞくぞくした。
「んんっ・・・」
麗香の上に倒れ込み唇を重ねる。両手首は押さえ込んだままだった。
「・・お前のすべてが欲しい、欲しいぞ!お蝶!」


麗香の唇に己の唇を重ね、わがままに吸い付いたあとで、宗方は叫んだ。
(竜崎の体だけでなく・・心も手に入れられるのか!この俺が!・・いつこの世から
消えてもおかしくない俺が!)
「お蝶!俺はうれしい!・・たまらなくうれしいぞ!」
宗方の叫びは本心だった。
死期に怯える己が得られた、予想にもしていなかった幸福だった。
宗方の叫びにこたえて麗香が静かに微笑む。
その笑顔はすでに涙は乾き、みじんの恐怖もなかった。
勝利した試合の後に見せる優雅な微笑みだった。
「そうですか、ふふ・・・」
宗方の唇とさきほどまで重ねていた麗香の唇が笑みを浮かべて軽やかに動く。
麗香の唇は柔らかだった。
蝶の羽根に触れる鱗粉とは違う感触だった。
さらさらとした細かい粒子の鱗粉とは異なり、ねっとりとしている。
麗香の唇の感触は蝶が好んで食す花の蜜ではなかろうか。
見下ろし、見つめ合っているとすぐにまた蝶が集めた花の蜜をすすり取りたくなってくる。
見つめ合ったふたりの乱れた荒い息があたりにこぼれる。
蝶が静かに口を開いた。
「光栄ですわ、コーチ!・・いえ、宗方さん!」

くく・・宗方の口元がほころぶ。
「・・よし!いいんだな、竜崎!」
場所が違えばテニスの指導と見まがうような宗方の言葉だった。
麗香の胸元に両腕が伸びる。
かすかな音を立て蝶結びのボウタイがほどかれる。
「!おっ、お待ちになって!」
麗香が叫んだ。
ブラウスのボタンを引きちぎりそうな勢いの宗方の手が止まる。
「・・なんだ、往生際が悪いぞ!竜崎」
(ここはやはり・・押しまくらなくてはだめなようだ)
しかし、意外な返事が返ってくる。
蝶は輝く太陽の下で、花と花の間を舞っているだけではなかった。
部屋の窓は開けてあった。
カーテンも開けられ、外を遮るものはなにもない。
蝶は夜に羽根を羽ばたかせようとしている。
夏空の満天の星空の下、暗闇を照らす優しい月明かりの下でも自由に舞おうと
している。
「このあたくしを畳の上に押し倒したままでというのは納得できませんわ。それに
あたくし自分の服は自分で脱げます。お手伝いなど必要ありません」
宗方を驚かせてばかりの麗香の言葉はさらに続く。
「抱き起こしてくださいませんか、宗方さん・・」
畳に散らばり乱れた金色の羽根が、畳と擦りあわされて音を立てる。


「あたくしは、このあたくしは・・逃げも隠れもいたしませんッ!宗方さんッ」
(・・蝶は逃げるどころか、俺の元に舞い込んできた!飛び込んできた・・!)
無言で宗方は麗香を、ゆっくりと抱き起こす。
麗香は驚くほど軽かった。
足や腕の優れた筋肉は、体重とは関係ないようだ。
宗方には麗香の豪華な巻き毛の金髪の方が余程重たく思えた。
重量の大部分を占めているのは、髪の毛かもしれない。
乱れた金髪の持ち主は、微笑みながら両腕を宗方の首に巻き付ける。
麗香は宗方の肩にあごをのせ、顔を沈めた。
宗方のあごが麗香の金髪で埋まってしまう。
畳の匂いが宗方の鼻をかすめた。
「・・・もしこのお部屋にハンガーがございましたら、使わせていただけませんこと?」
「ああ、ああ・・ある。洋服ダンスの中だ。すきにしろ」
(・・・この竜崎の余裕はなんだ・・なぜこんなに余裕がある・・)
驚く宗方を尻目に、麗香が立ち上がった。
蝶が静かに舞い上がるようだった。
麗香のまだブラウスをまとっている両腕が、自らの後ろにまわされる。
長いリボンがはらはらと畳に落ちた。
「・・・いまは、いまだけはこのあたくしだけを・・ご覧になって!」


金色の大きな羽根を持つ蝶はじつに大胆だった。
呆然として座ったままの宗方にお構いなく、洋服たんすをめざとく見つけ
近付く。
タンスの観音開きの扉を開いた。
はめこまれた鏡に麗香の上半身が映し出される。
麗香は自分一人きりであるかのように静かに服を脱ぎ始めた。
下半身を覆い隠しているスカートのホックがはずされる。
光沢のある白いスリップが顔を出した。
スリップの裾から見慣れた白く長い両脚がのぞいている。
(スコートより裾はいぶん長いんだが・・・)
宗方の喉が鳴る。
スカートを丁寧にたたみ、ハンガーに掛けると麗香は
すぐにブラウスのボタンに手を伸ばした。
部室の着替えでもこうなのだろうか。静かに淡々と決められた作業のように
ブラウスの袖から腕が抜き取られた。
(いつもこうやって着替えているのか・・・)
麗香のスリップ姿がひどくなまめかしく感じられた。
はち切れんばかりの肉体が、出し惜しみをするようにまだ白い下着に守られている。
鏡の麗香は唇を真一文字に引き結んでいた。
(・・・やはり、おまえは美しい、お蝶!)
扉が閉じられる。
麗香が振り向いた。まだ座ったままの宗方に歩み寄る。
さすがに恥ずかしいのか両腕は胸の前で組まれていた。
「お願いです・・・このあたくしだけをご覧になってください・・・」
瞳を潤ませて麗香は同じ言葉をくりかえす。


「ようし!見てやろう、竜崎!」
テニスのフォームでも確認するかのような、気合いの入った宗方の声だった。
宗方の手が、光沢を持つスリップをまくり上げる。
「・・・!あああっ・・」
麗香は目を閉じ天を仰いだ。恥ずかしさで頬が紅潮している。
「くうっ・・ふああっ・・」
宗方は、スリップの中に顔を潜り込ませている。
両手は後ろに回され麗香の尻をショーツの上から撫でさする。
「やあああっ・・・はあっ・・」
ショーツの布越しに、宗方の鼻息が、吐息が感じられる。
それは温かい空気だった。麗香の体の奥が、頭の中が熱くなる。
なにより熱い視線を感じ、両脚に力が入らなくなった。
「ああっ・・なにを、ご覧に・・なって、なっていらっしゃい・・ますの・・・」
膝をガクガクと震わせながら麗香は胸に組んだ両手をふりほどいた。
宗方の頭に手を置く。髪の毛に指を潜り込ませる。
「・・・真っ白で・・なにも見えん・・・」
いつもの冷静な宗方の声に、麗香は拍子抜けした思いだった。
「えっ・・ええ!?」
驚き呆れて素っ頓狂な調子の声をあげた。
「・・・すべて見せてもらおう!お蝶!」
スリップにもぐりこんだままの宗方の声とともに尻を撫でさすっていた手のひらが
上方のウエストにはい上がる。
ショーツが勢いよく引き下ろされた。
「きゃっ・・きゃああああッ!」
麗香は悲鳴を上げた。


麗香の白いショーツを勢いよく膝の辺りまで引きずり降ろすと、宗方の両手は麗香の肩に
のびる。
上半身を伸ばしてスリップの肩ひもを手のひらにおさめ、すべり落とさせる。
「ああっ・・・!」
音も立てずにスリップは麗香の上半身から落ちていく。
幕が切って落とされるとはこのことだ。勢いよく下へ落ちていく。
ところがスリップは、麗香の股間にとりついていた宗方の頭の上に覆い被さった。
「・・・なんだ。あいかわらず白一色だ・・」
「まあ!・・・ふふふっ・・・」
頬を赤らめながら、麗香は不覚にも笑いをこぼした。
「ずいぶんとふざけた方でいらっしゃいますこと、ふふ・・はああっ!」
麗香はうめいた。
足の甲の上までスリップが落ちてきた。無言で宗方は頭を抜き取ったのだ。
「ああっ!そんなぁ・・」
間髪入れず、膝の上にとどまっていたショーツが足首まで引き下ろされる。
麗香の下半身は、剥き出しとなって宗方の眼前にさらけ出されてしまっていた。
宗方が顔を上げる。
「・・ふざけてなどいない。竜崎!お前には乱れてもらう・・」
その鋭い視線に麗香は息を飲んだ。
テニスコートの外で見せるいつもの真剣な表情がそこにあった。
「こちらこそ・・のぞむところでございますわ、コーチ!」


他の女性なら、ましてや女子生徒の発言ならば高慢としか思えない。
ところが、この竜崎麗香が発すると違う。
挑発ともとれる発言が不思議と上品で、気分がたかまり煽られる。
(・・・岡には、女を越えてもらわねばならないと思っていたが、お前は違う!
竜崎!俺はお前を女にしたい!美しく、そして強いお前だからこそ『モノ』にしたい)
「・・俺は・・お前の、さいしょの男になりたい・・・」
宗方は本音が素直に吐き出せた。
麗香の口元がほころんだ。
「あたくしも・・あたくしもそれを望んでいますっ!」
和弓のように、弓なりに唇が弧を描く。
頬を赤くさせ、汗を玉のように浮かばせた麗香の顔は美しかった。
勝利した試合のあとに見せる笑顔よりもうれしそうだった。
そしてたまらなく淫らだった。
赤い唇からのぞく白い歯のコントラストが生々しい。
下から見上げたふたつの丘はまだ白いブラジャーに守られている。
(それよりまずはこちらが先だ!)
宗方は、眼前のうすい茂みに、顔を押しつける。
頭の豪華な巻き毛の金髪よりすこし濃いめの色をした茂みは刈り取られそろえたように
うすく、ふさふさと柔らかかった。
「あーっ!・・あはあああっ・・・・」
麗香が喉を突き出し全身を震わせる。


宗方の舌が麗香の花の中へ押し入っていく。
宗方もいつまでも正座をしているわけにはいかなかった。膝立ちになり麗香の股間に
頭を埋め、しかと抱き寄せる。
「あああっ・・・」
うめき声ともとれる麗香の悲鳴を合図に、舌が動き始めた。
肉の花弁の内側をなめとり、思うさま吸い付く。柔らかく弾力のある肉の花びらは
舌の動きに合わせて思うように動かされる。
「・・・はああっ!」
麗香の両腕に力が入った。
宗方の頭の髪の毛をかきわけ、彼の地肌に指の腹が押し付けられる。
普段ならばテニスラケットやピアノの鍵盤が押し付けられる優雅な指が、体の
奥を舌でもてあそんでいる男の頭に押し付けられる。
体の前面に位置した芽の表面も余すところなくはいまわる。ほうと暖かい空気を吹きかけてやる。
「・・くはあっ・・・!はああんっ!」
鳴かないはずの蝶が、秋の夜の鈴虫のように甲高くさえずる。
だがその鳴き声は涼やかな心地よい音色ではない。
気分を高ぶらせる、うなり声にも似たみだらな響きだった。
「あああっ・・・こっこんな、こんなことってええ・・・ああんっ」
花から蜜を吸い取る役目の蝶が、下の花から蜜をあふれさせてきた。
甘酸っぱい蜜の香りが宗方の鼻にまとわりつく。

麗香の膝はがくがくと震えていた。
体を刺激にまかせて揺らすため白いスリップの肩ひもが、だらりと垂れ下がっている。
「あはあっ!あたくし・・・もぅ、た立って・・いられ・・・ない・・はあっああ」
豪華な金髪を乱れに乱れさせて麗香は体を揺らす。
額ににじんだ汗がすうっと一筋伝い落ちた。
すでに息は絶え絶えになっていた。
「なんだとっ・・・この程度のことで・・前戯でまいってしまってどうする、竜崎!」
突然宗方が顔をはなし一喝した。
「はっ・・・!」
同時に甘く熱い刺激を失い、麗香は正気に戻ったような気がした。
「お前のテニスと同じだ・・・優雅さの中に秘めた闘志を見せろ!」
それは麗香がコートに立ったときにとんでくるコーチのげきとかわりはなかった。
「ようし・・ではお前が攻めてみろ」
宗方があぐらに座りなおした。
着物のすそを左右にまくりあげ、勃起した男性器を指し示す。
「ああ!」
麗香は目を見開き、感嘆の声とともにうっとりと見つめる。
「攻めろ!攻めてみろ!おそれるな、お蝶!」
天に向かってそそり立った宗方のそれは、立ちはだかる山のように思えた。
切り立った断崖絶壁のように、刃物のように鋭く、麗香は恐怖さえ感じた。
「ああ・・・なんということ・・・」
赤い唇も、蜜を滴らせた下の唇も震えている。

「だれにでもさいしょというものがある・・おそれるな!お蝶」
おそらく初体験であろう麗香に女性上位の対面座位をうながす自分に宗方はあきれた。
(お前なら・・できる!きっとお前はリードされて処女を喪失するよりも、
コーチされて経験したほうが満足するだろう・・プライドの高いお前にはそのほうがよい)
のちに病魔と闘っている男と交わったと知ったときに、リードされ身を任せたことを
もしかしたら後悔するかもしれない・・・。
宗方の読みは正しかった。麗香がコクリと頷いてみせる。
「・・わかりましたわ、あたくしを・・・このあたくしを受け入れてくださいませ」
麗香の美しい顔が引き締まり、さらに妖しく輝く。
「よし・・・それでこそお蝶だ・足を開け!」
白い足が左右に開かれる。肉の割れ目もまた左右に押し開かれる。
宗方の両腕が、麗香のくびれた腰をしっかりと支える。
「ようし!俺の先端と・・そうそこだ!」
腰をのろのろと動かし、麗香は己の体の中心と宗方の男根の先端を近づけていく。
腰をくねらせ、不慣れな様子ながらもなんとかたどりついた。
薄紅色の肉の花びらが先端にあてがわれ押し広げられる。
宗方の先端に触れた麗香の体液は外気に触れて冷たくなっていた。
「じゅうぶんに潤っている・・うれしいぞ俺は!」
「まぁ」
麗香が余裕の表情を一瞬見せた。
「苦痛と快感は表裏一体、隣りあわせだ。痛みを耐えろ!お蝶!」
宗方を見下ろしている麗香は無言でうなづいた。
「よし・・・こいっ!」

蝶の柔らかい肉の花弁が、とどまるにしては大きすぎる枝だった。
蝶の選んだ止まり木は、蜜を蓄えた鮮やかな色の花びらを持ち合わせていない。
花というよりは、大きく熟した実のようだった。先端は稲穂のように硬い。
蝶はとどまるだけではなく、その硬い実を含もうとしている。
止まり木を体の中に収めようとしてる。
麗香は足をひらき、宗方を挟んで跨った。
素足に普段の生活では触れることのない畳が触れる。
スリップとショーツは足を振るって、脱ぎ捨てた。
役目を失ったスリップとショーツはさなぎのカラのようにくるまっていた。
ブラジャーだけを身に着けた奇妙ないでたちの麗香が息を整える。
言葉はなかった。宗方も無言で待つ。
しっかり麗香の腰を引き寄せ、形よく盛り上がった、ヒップの両のふくらみにのせたた手のひらに力が入る。

蝶が羽を休め、舞い降りたような静けさが一瞬あたりを包んだ。
麗香が試合でサーブを放つ寸前の静寂だった。
華麗なフォームでありながら、リターンを返すのも困難なお蝶夫人のファーストサーブ。
それを繰り出す際に、麗香が発す気合の入った声に似ていた。
「・・・はああああっ!ああああああああっ!」
しかしその声は、さわやかと呼べるシロモノではなかった。
痛みに苦しむ悲鳴だった。
初めて得た体験への絶叫だった。
「ああぁぁ。。つぁぁぁっ!」
麗香がのけぞる。金髪の豪華な羽根が音を立てて揺さぶられる。
りん粉のように、顔ににじませた汗があたりに飛散する。

悲鳴を上げ背中をそらし体をはずませる麗香の体の中へ、宗方は深く深く進んでいく。
透明な粘液に押しつつまれ、いざなわれて体の奥へと大きな男根が沈んでいく。
「ううぅぅっ・・・くぁぁぁぁ!」
麗香はそれでも耐えようとしていた。声を抑えようと必死だった。
歯の根をなんとかかみ合わせ赤い唇をかみしめようとする。
飛び上がりそうな苦痛としかいいようがない。
異質な硬度のそれに、体の中をこすられると熱くなる。
おおきすぎる・・・体がえぐられている違和感に必死で耐えた。
「くぅっ・・・これは・・・」
宗方もまたうめいていた。
ねっとりとした蜜で、麗香の肉の内壁を進むことはできる。
だが、ぴったりとあわさり、肉と肉がこすれると思わず声がこぼれる。
熱い血がたぎっていた。
(病身の己でもここまで血を熱くたぎらせるほど燃えることができるのか・・)
「・・・えんりょするな!竜崎!素直になれ・・感じたままにぃっ」

蝶はあっという間に細いその体の中に太い枝を含んでいく。
赤黒い肉の枝が、蝶の股間にめり込み姿を隠していく。
「うあああっ・・・!つうううッ、ああっ・・」
麗香は宗方に促されてもなお刺激に耐え必死に声を押し殺そうとしていた。
含んだ異物が進むたび熱い痛みが体の中を走る。
体を揺するしかなかった。
バサバサと音を立てて金色の羽根を羽ばたかせる。
羽根を構成する金色の糸は乱れに乱れていた。
いつもは整えられ、丁寧に編み上げられている巻き毛の糸は、ほつれて宙を舞う。
「くはあああっ・・・」
麗香のすらりとした長く白い両足が、向かい合わせとなった宗方を挟んで折り曲げられる。
麗香の足の裏に畳の表面があたる。
宗方と竜崎はいまひとつにつながった。
柔らかい肉に枝が差し込まれ、つながった部分の隙間からは体液が染み出す。
「ああっ・・・はぁはぁはぁ・・・」
荒い呼吸と、上半身はお互いにまだ衣服をまとっている心臓の音すら重なっているようだった。
「どうだ、竜崎・・・」
宗方が静かに笑いながららこやかに話しかけた。
その笑顔に麗香の口元もほころぶ。
真一文字に引き絞り、とがった声を必死でおさえていた険しい表情が消えていた。
「はぁはぁはぁ・・・」
息を弾ませた妖しい魅力をたたえた麗香の声だった。
「ふっふ・・なかなかに・・・よろしゅう、ござい・・ます・・」
汗を白い顔に浮かべて麗香が微笑んだ。
「あはあっ・・こ、こんなことはじめてっ・・ですわあぁっ・・」
疲れを感じさせながらも麗香の満足しきった、みだらな声が心地よく、宗方の耳に響いた。
「・・・ふん、強情なヤツだ!素直になればいいものを」

宗方がゆっくりと力強く突き上げた。
「・・・ふんっ!」
サーブを打ち放つときにも思える気合の入った掛け声だった。
同時に激しく、麗香が反応する。
「・・・はああっ!」
衝撃に体を揺らす麗香の身にただひとつ残されていたブラジャーをずりあげる。
白く形の良い乳房が揺れて姿を見せた。
熟れた果実の皮からはじけた果肉のように豊かだった。
つややかな果肉の表面に鎮座した淡い桜色の尖りもまた揺れてあやしく誘う。
宗方は麗香の胸をわしづかみにする。
「ああっ!・・・うああっ」
むき出しになった乳房を撫でさすり、乳首をつまみあげ、いままで放っていた
ことをわびるかのように胸に愛撫を加える。
「はっは・・すごいな・・・すぐにかたくなった」
麗香の乳首は宗方が触れたとたんに硬度を増しみるみるうちにたちあがった。
「いいな、竜崎!この感度のよさを大事にしろよ!」
宗方は下半身を動かし、規則正しく何度も突き上げる。
「あっ・・あっ・・はあんっ!あぁ・・あぁ」
麗香は両腕を宗方の背中に回しきつくきつく抱きしめた。
麗香をのせた宗方も呼吸が乱れ点全身が汗ばんでいる。
(テニスを通じて得た師弟関係を・・俺はお前とさえも断ち切ったのか・・・!)
「ふんっ・・・!」


(・・いいや、違う!違うな)
宗方が麗香のかたくたちあがった乳首にむしゃぶりつく。
(・・・岡とは・・・師弟関係しかゆるされないのだ。テニスで信頼を得ていても、
岡の体を強引に手に入れても、俺がどんなに愛していても・・・岡の心は!)
麗香の乳首に吸い付きながら、宗方の頭を岡ひろみと、さらに悲しい記憶しかとどめていない
母の顔がよぎった。
(竜崎、お前と・・・男女の仲になるのはわるくない!師弟の関係から猥雑な関係になるのが
むしろ楽しいくらいだ!・・・こんなに楽しければ誰と抱き合ってもいいものなのかもしれん・・)
さらに憎んであまりある、軽蔑し続けてきた父の顔がうかんだ。
(こんなことをした俺は・・もうあの男を責めることは出来ん・・・)
憎しみが失せ、同情にも似た奇妙な気持ちになった。
「つあああっ!・・ああっあっ、はああああ!」
指示されたわけでもなく麗香が腰を揺すった。
膣口の括約筋がきゅっと締まる。
予期していなかった押し包まれた肉壁からの刺激に宗方は飛び上がりそうになった。
「!おおっ・・・」
突き上げる行為を中断し宗方がうめいた。
息を弾ませた麗香が宗方を見つめる。
しばし無言でふたりは見つめあう。
「・・ここまでできるとは・・ふっふ・・・竜崎、お前はテニスだけでなくこっちのセンスも抜群だ」
「まあ、コーチともあろう方が、なんというお言葉ですこと・・・はあああっ!」
麗香が絶叫とともにのけぞった。
「そうだ、竜崎!舞え!とべ!満天の星のもと・・・夜に舞い乱れろ!」

「まったく・・・お前もスキモノだな。鬼コーチならぬ破廉恥コーチだ」
凍てついた冬の夜風をものともせず、酒で体を温めた大吾があきれる。
「若い連中はともかく、お前がそんなに・・体は大丈夫だったのか・・・」
「・・・ああ。というよりな大吾。俺が思うに、死を無意識のうちに予感していたからこそ
あんな行動がとれたのだ・・・誰かに種付けしたかったのだと・・・そんな気がする」
「・・・本能ってやつか。業が深い話だ。そのくせ精を仕込むことが誰にも
出来ぬとは・・・かんぜぇざぁいぼさぁつう」
酒臭い息とともに大吾は澄んだ声で念仏を唱える。
宗方の話はまだ終わらない。
「・・・でもあれでよかったと思う・・・というのはな、まだ続きがあるのだ。大吾。
手紙では触れなかったあの夏の合宿での一連の出来事・・・」
大吾の念仏がはたとやんだ。
「・・・もうなにを打ち明けられても驚かんぞ。そのあと竜崎の後ろの穴も愛したのか、それとも誰か同性の
菊座の味も堪能したか」
「茶化すな」
下品な笑いを浮かべた大吾に、宗方も口元を緩ませる。
「俺自身竜崎に思いを寄せるやつなど男ならゴマンといるにちがいないと
それくらいは想像出来る。だが彼がそのひとりだとは思っていなかった!」
宗方の口調がはやくなる。
「俺はそいつに感謝している。公にすることもすべて出来たのに・・・俺がいまもコーチで
いられるのはあいつのおかげだ・・・」
「ずいぶん持ち上げるじゃないか。誰だぁ。そいつは?」

着衣をみだれるにまかせふたりはお互いを激しく求め合っている。
「あっ!はああッ!ああんッ・・・!」
麗香の喘ぎはテニスコートで華麗に舞う彼女の呼吸と同じだった。
彼女の荒くせわしい調子の喘ぎ声に宗方はそそられる。
「・・ふんっ・・・」
彼女に放つこん身のサーブと同じだ。おもいのたけをこめて彼女の中に突き入る。
ただ懸命に打ち込む。
「はあああぁっ・・・た・・・たまりませんわあああっ・・・ああっ!」
麗香は無知なりに腰をくねらせて刺激の変化を楽しむ。
彼女の全身に、背中にまで浮かんだ汗が宗方の手のひらにびっしょりとはりつく。
「うっ・・その調子だ!お蝶!・・・全身全霊で動け!」
宗方も全身に汗をたぎらせてうめくようにささやく。
ふたりは体をむつながらせたまま上下前後左右と動き荒い呼吸をたえずこぼしていた。

波が寄せるような快感にひたりながらも、宗方は異変に気がついた。
突然動きを止める。
「誰だ・・・そこにいるのは・・・」
「・・ハッ・・・!」
向かい合っていた麗香の白い顔が素早く、鋭く後ろへ振り向かれる。
宗方と麗香のふたりは息を飲んだ。
わずかながら扉に隙間が生じていた。
部屋につけられたままの明るい照明で、交歓に夢中で、部屋の外の気配にまったく気がつかなかったのだ。
(あああ!なんということ!・・・あたくし、お部屋に鍵をかけていなかった!)
全裸の麗香は無言で視線を自分がすがり両腕に抱きかかえられた宗方に注ぐ。
すまない気持ちで言葉が出ない。一糸まとわぬ背中を、どこのだれかわからぬ人間にさらしていたのだ。
ましてや初めての交わりだと思うと恥ずかしさが増した。
しかし麗香が驚くほど、宗方は冷静だった。
「・・・誰だ。あんまり驚いて、声が出せないのか。・・逃げ出すこともできんか」
麗香をつらぬいたままの分身は勢いを失ってはいない。
たださきほどまで激しく突き上げていたその律動はとどめている。
跨り中腰になった麗香は不安定だ。つながったままの状態でゆれている。
こんもりと膨らんだ、白い両の乳房がゆっくりとゆれている。
麗香の乳房を顔面に眺めながら、普段の様子と変わらぬ口調で、正体の分からぬ人間に語りかけた。
「名乗りにくいことはわかっている・・・そのまま姿を現さずに逃げおおせることも
できるだろう。だが、考えろ!お前はそれでいいのか・・・」
宗方自身驚くほど冷静な問いかけだった。
他人の情交中をかいま見た人間自身もおそらく動揺し、名乗るようなことはしないだろう。だが
それでも宗方は問いかけた。
怒りもない、とがめる気持ちもない。
自分の見知った者同士が、鬼コーチとお蝶夫人とそのあだ名をとどろかせている竜崎麗香が
こともあろうに裸でからまっていたら誰でも冷静ではいられまい。
部員であろうが、宿の職員だろうがどのみち西高のテニス部ということは知れてしまう。
「おおっぴらに誰かに話そうがかまわん、判断はそこにいるお前に任せる、すきにしろっ!」
(・・・竜崎まで抱けたのだ。ここまで乱れるに乱れてしまえば満足だ・・・)
ふたりは静かに扉に隠れた、名の知れぬ相手からの応答をまつ。


裸で、そして体の中の奥深くまでつながったままで、宗方と麗香のふたりはどれほど沈黙していただろう・・・。
息が詰まりそうな長い沈黙は、少女の絶叫によって破られた。
「・・・いやっいやいや!いやああああ!」
勢いよくドアが開かれる。仁王立ちになった彼女は首を激しく左右に振り金切り声を立てる。
「・・・あんまりだわっ!ひどすぎる・・・不潔、不潔不潔!けがらわしいっ!」
向かい合わせの宗方から後ろに振り返らせた麗香が声を絞り出す。
「・・お・・とわ、さ・・ん」
いつからは知れぬが、宗方と麗香の心と体の交わりをかいま見ていたのは、音羽京子であった。
竜崎麗香と同級生であり、プレースタイルをイチバンよく真似ていた選手だった。
よって宗方は、音羽京子に選手としてなんの魅力も感じなかった。
純粋な気持ちでテニスに打ち込むことなく、コートを後にした自分のかわりに、テニスに情熱を注ぐ選手は
誰かのコピーでは困る。
音羽を選手からはずすことに迷いはなかった。
いや、本当は岡ひろみを選ぶためなら、だれでもよかったのだ・・・。
宗方が西高のコーチに就任してからは、ことあるごとに宗方に敵意をみせ、反抗し、攻撃していた音羽であった。
「お蝶夫人っ!あなたほどの方がなんということっ!あたしは・・ぜったいにあなたがたを許せないっ!」
音羽の握りしめた両のこぶしが震えている。
怒りに満ちて見開かれた音羽の両の瞳からは、涙がうかんでいた。
「なんてっ・・・なんてハレンチな方たちいいい!我が伝統ある西高テニス部もおわりだわ!
宗方コーチ!なんてなんて恥知らずな方!ハレンチコーチ!エロコーチ!」
音羽の罵倒に反論もできず、麗香は黙って宗方と向き直った。
「・・・いうことはそれだけか、音羽。いったはずだ。すきにしろと」
「くっ・・・!」
部員たちのどんな猛抗議も、詰問されても、宗方はこれまで一蹴していた。
いままでとかわらない、その動じていない落ち着いた態度と口ぶりに音羽はひるむ。


「音羽京子か・・・よりによってお前が見捨てた、いや見向きもしなかった選手に
お前はすくわれたんだな。コーチをやめずにすんで、こうしていまも続けていられる
・・・彼女がだまっていたんだな・・・」
「・・・違う」
「なにが違う。指導者は全員に平等でなくてはならないはずだろう。建前だが。
仏の道も門戸は誰にもひらかれている。拒むことは出来ない。出来不出来にかかわらず
お前はテニスを選んだ若い連中を、指導しなくてはならん・・・それを最初から放棄したんだ
お前の余命にあわせてなあ」
深酒がきいたのか、語られる内容に呆れたのか、大吾の語りがとげとげしくなっていた。
痛いところをついてくる。
余命だと、人間の生死に関わる言葉を簡単に口に出す。
「お前も業が深いことをしてきたんだ。こうして俺と話し合えることを感謝しろ、お前が
踏みにじってきた弟子たちの気持ちを考えろ。そうすりゃあ、うい・・・げえっぷ」
この、酒豪の破天荒な坊主はまだ手酌を止めようとしない。
「くはあっ・・てめぇが生かされていることにただ感謝することしかできまいよ・・・」
「・・・大吾」
「うん?」
「・・・俺はみんなに、俺を取り巻くすべての者たちに感謝しているよ・・・」
「はぁ、そうか。そうか・・・」
神妙な口調の宗方に拍子抜けしてしまい、大吾は口をあわせるしかない。
「・・・もちろんあのとき、コーチを退くことは真剣に考えていたんだ。あの合宿は
さいしょからなにかがおかしかった。・・・恋を意識しはじめていた岡も、俺もな」
窓をあけはなしている部屋の中を、冷たい夜風が通り過ぎていった。
宗方の心を、さらに凍えさせたいかのようだった。
「・・・こんな体で・・・・よくもったと思う・・・たぶん女と交わることはあれが最後だ・・・」